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#十四 郵便局分室(一)

「い、わ、や、くぅーん」


 東京府(※十三)は日本橋にある、とあるビルヂングの一室。


 『東京府中央郵便局 特別分室』と看板のかかった狭い部屋で、地の底から響くような声をあげて小波に迫るひとりの女性。


 二十代半ばだろうか、眼鏡をかけて、地味ながらさっぱりとした清潔感のある和装。対する小波も、上野で着た洋装ではなく簡素な和装で椅子に座ったまま尋ねる。


「ど、どうしましたシズ子さん」


「どうしました、じゃないでしょ。何なのこれは」


 五つの机と応接用のソファーセットが詰めこまれた部屋の中は、シズ子と呼ばれた女性と小波のふたりだけ。


 そこでシズ子は小波に向けて、手に持った一枚の紙片を突きつける。


「領収書、ですが」


「ですが、じゃなくって。どうして牛鍋屋で飲み食いした代金が、経費として申請されてるの」


 シズ子の持つ領収書は、先日上野の牛鍋屋でコガネにおごった際のもの。


 コガネが食いまくったので、自腹で精算するのはあまりにも痛い。


「え、えーとですね。配達の際に民間の方にご協力を仰ぎまして。その方に謝礼としてお食事をふるまったワケでして」


 実際の請求額には小波が飲んだ酒も含まれるが、それはうまいこと誤魔化しておく。


 するとそれを聞いて、シズ子の眼鏡がキラーンと光る。


「へーえ、民間の方。それじゃあ、その方を連れてきてもらいましょうか」



   〒



「――というワケで、連れてきました」


 数時間後。


 小波は思った通り上野の停車場で靴を磨いてたコガネを半ば拉致するように連れ出して、直接シズ子に引き合わせた。


「ど、どういうことだよアニキ」


「いいから適当に話を合わせてろ。後で飯おごってやるから」


 小声でコソコソ話すコガネと小波。シズ子は値踏みするようにその様子をジロジロとガン見して、やがてコガネに尋ねた。

※十三 東京府…明磁元年に江戸を制圧した明磁政府は江戸府を設置。同年、江戸が東京に改称された際に東京府と改めた。東京「都」になるのはさらに先のこと。

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