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それでも立て明日のために  作者: 天夜 幸朔
I.名無しの青年村に住む
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X.03自分の名前は今日からアル

 

  「ここは・・・」


  記憶にない天井、後味が悪い悪夢を見た気がする。

 周りを見渡すも知らない場所で頭の中に疑問が浮かんだ。


  どうしてこの場所に、というか自分は一体。


  誰なんだ自分は。


 自分が何者か分からず、頭が思い出すのを拒絶するかのようにとても痛んだ。


 それと同時に何日食べていないのか、分からない頭では覚えていないが、青年のお腹は食べ物を求めるように音を鳴らした。



 ーーー


  「本当に記憶がないのか」


  青年が目を覚ました後、少しして見たことない老夫婦が部屋を訪れた。

 どうやら彼等の家に今自分はいるらしい。

 恥ずかしながらお腹の音はあの後も止まらず老夫婦に聞かれてしまっていた。

 老人は無言で何も言わなかったが、老婆の方はからかうかのように少し意地悪な笑みを浮かべ、


「朝食はもう食べてしまって材料がないのよねぇ」


 これが本当だとしたら自分は泣いてしまっていたかもしれない。


「ふふふ、面白い人ね」


  老婆の冗談だったらしく、そのあと食事はいかがと誘っていただいた。

 部屋を出て(さっきまでいたのは2階のようだ)階段を下る。そこには暖炉のある温かそうな部屋が待っていた。


「貴方達は座って待っていて」


 老婆はそう言った後に部屋の一角へ消えていった。


 老婆が向かった先を聞いたら老人に台所とだけ言われた。


 台所?から戻ってきた老婆は、数種類の何かが煮込まれた温かそうな汁と少し黒い何かを用意してくれた。


 食前の挨拶(青年は覚えておらず老夫婦の見様見真似で唱えた)の後いただいた。

 食べ方も見様見真似で時間はかかったが、老人たちは何も言わなかった。


 食事はとても温かく、美味しかった。久しぶりに食事をした気がする。あんなに美味しいのに言葉が出てこない。


 そしてさっきから気がするばかりで違和感がぬぐえない。



「おい、聞こえているのか」


 老人は苛立っているのか、先ほどより強い声で話しかけてきた。


「すみません、まだ頭の中整理できてなくて」


  喉から出た声も自分のものではない気がしてくる。

 そんなはずはないが頭の中は相変わらず真っ白で何も覚えていない。


「この方は嘘をついていませんよイシュー」


 先程まで食器を洗っていた老婆は老人、イシューさんにそう声を掛けた。


「・・・今までの記憶がないなど突然言われても嘘にしか聞こえんだろう」

 信用できないと言いたげにこちらを睨んでいる。


 無理もない、青年がイシューさんだったとしても同じように考えてしまう。


「おかしいですよね、自分が自分を分からないって」


 思い出そうとするとしても何も浮かばない。首の後ろを何かで切断されたように考えることすらできなかった。


「イシュー、私の言った事分かるかしら?」

 老婆はニコッと笑った後、座っているイシューさんの隣に座り彼の手を握りしめた。


「・・・」

 老人は無表情のままだが、握られた手から逃れるようにバタバタと手を動かす。


 机の下の様子は青年からは見えないので、この二人は何をしているのか理解できない。

 目を泳がせ困った顔をする青年を見て老婆ーーシエルはやっぱりこの人は悪い人じゃないと確信していた。



  ーーー


 青年は今までの経緯を話すしかなかった。


 かすかに覚えている夢の内容、記憶にあるのは森にいつの間にかいた事。あとはとてつもない喉の渇きに襲われ、水を求めていた事。


 老人は無表情のままじぃっとこちらを見つめる。嘘をついていないかを判断しているのだろうか。


 でもこれ以上語れることはできない。青年は記憶は勿論のこと、どこから来たのか自身が着ている服にも身につけていた指輪に関しても記憶はなかった。


 青年は口を開く。


「イシューさんが助けてくれなければ、自分は死んでました」


 一拍おいて


「助けてくれてありがとうございました」




 青年はイシューの方を向き、お礼を言った。



 見ず知らずの自分を助けてくれた老人に、落ち着いたらお礼を言おう。

 青年は感謝の気持ちを伝えたかった。いくら記憶がなくなっていようとこの老人は命の恩人なのだから。


「まるで貴方、アルみたいね」


 感謝され困惑しているイシューの顔を見ながら老婆は青年に向けて明るく言った。


「アル・・・さん?って方に自分が似てると」


 実際見たことがない人に例えられて青年は不思議そうな顔をする。


 それに対して老婆は返事をせず、何故か青年を見てお腹を抱えて笑いだした。


「な、何かおかしなことでもい、言いましたか?」


 笑い出す老婆が少し不気味に見える。何か変なものでも食べたのか。


 不安になった青年を少し不憫そうに思いながら老人は口を開いた。


「・・・アルは昔飼っていた犬の名前だ」


 なるほど犬?(を青年はよく分からなかったが)に対してさん付けで呼んでいたから、老婆は笑ってしまったと。青年は納得した顔をする。


「アル」


 老夫婦の飼っていたらしいアル?の名前を口に出す。

 意外としっくりきた。


 本名も思い出せない中、自分を呼ぶ名称がないのもおかしな話。


 というより不便だ。なら借りても良いかもしれない。この夫婦なら怒らないだろうと思った青年は、



「今度からアルって呼んで下さい」

 

 少し微笑んだ後二人に向けてこう言い放った青年アルに対して老人は何度も何度も瞬きをし、老婆は更に嬉しそうに、笑っていた。



 その後もアルが気になったこと。

 食べた食事について、二人の暮らしなどアルは気になったことを片っ端から老夫婦を質問した。


 それに対してこだわりが強い部分に対してはイシューがそれ以外をシエルが分かりやすく伝わるように答えていった。


 話していくうちに日は暮れていき、アルと老夫婦の初対面はこのようにして終わった。




  ーーー


 そしてその日の夜。



「アルさんは記憶がなくてこの先お困りでしょうし」




 シエルはもう決定事項だと言わんばかりに、




「しばらくの間いっしょに暮らしてもらいましょう」




 分かっているわねと言わんばかりにイシューに向けて言う。



 懸命に夫を説得する妻にイシューは折れ、アルと老夫婦の少し変わった日常はほのぼのと幕を開けていった。



読みづらい書き方で申し訳ございません。ひとまずは投稿を目標として頑張っていきたいと思います。

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