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それでも立て明日のために  作者: 天夜 幸朔
I.名無しの青年村に住む
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X.02奇妙な青年

今まで貯めていたものを吐き出したくて書いてみました。

 

 ・・・誰かが、自分を呼んでいる気がした。

  後ろを振り向きたくても首がまるで岩になったかのように動かない。


「(待ってくれ自分はここにいるぞ)」


 そう叫びたくても喉からはかすれた空気しか出てこなかった。


  気がつくと、自分は記憶にないお城の廊下に、崩れたように倒れ込んでいた。

  全く記憶もない、絵画一つ壁に飾られていない。廊下の一角に自分は壊れた石像のように倒れ込んでいる。


  息が苦しい、周りはとても冷たく思わず白い息が口から漏れる。


  何故かは分からないが、この場から逃げろと頭が悲鳴を上げている。


  ただ相変わらず体は、思ったように動かない。こんな薄暗い場所に一人でいることに怯えているのか。


  頭が回らない、頭が破れそうだった。

 自分は〇〇〇を助けに来たはずで。

 そこから先は思い出せない。


  この状況を変えるために魔法を唱えようにも上手く詠唱出来ない。口の中は乾ききっている。

 身体を温めようとするがやはり動かない。


  恐怖に駆られながら、

  今の自分に出来ることは体を引き寄せ誰にも見つからないように息を潜めることだった。




  何時間経ったのだろう。

  人の気配を感じない真っ暗な廊下に、突然カツンカツンという音が響き渡る。


  音がこちらに向かって、ゆっくり近づいてくる。姿は見えない何かが自分を追いかけてきたのが分かる。


  体に悪寒が走る、またあいつが、仲間を好き勝手に弄んだあいつが。


  動け、動け、動け、動け。このままだと捕まってしまう。


 あいつってなんだ?


 思い出せない。

 頭の中が〇〇〇の好きなスープみたいにぐちゃぐちゃに混ざっている。


 這いずってでもこの場を離れようと考えたその時、自分の背後に何かが立っている気がした。



  後ろを振り返る間も、声をあげる間もなく。黒い何かに顔を掴まれ、自分の意識は深い深い暗黒の海へ堕ちていった。




 ーーー



「こやつはまた悪夢を見ているのか」


  一人の老人がベットに寝ている青年に向けて、不安そうに声をかける。

  老人の傍らにいた老婆は老人の独り言に対して返答せず、水で濡らした布を青年の額に置く。


  老人が何も言わずに青年を家に連れてきた時は驚いてしまった。


「(本当にこんな青年どこで見つけたのかしら)」


  普通じゃないと老婆は人目見て分かった。金貨二十枚は下らない仕立てられている衣装。触り心地の良い生地で仕立てられ、荒さがない。とてもじゃないが私達では届かないものだ。


 右手には青い宝石のついた指輪を身につけ、オーダーメイドのような服を着こなす青年。


  そんな意識がない彼をこの人はどこから拾ってきたのかしら。


  老人に二、三度理由を尋ねてはいるが返答は帰ってこない。


「(多分彼にもわからないんでしょう)」


 いつもなら短い言葉で説明する彼が何も言わない。つまり彼にもわからないんじゃないか。


 長年付き合ってる夫婦だからこそわかるものだった。



  悪夢が終わったのか小さな呼吸音が聞こえる。ただ老人達の沈黙はしばらく続いた。


 夫婦は沈黙を嫌ってはいない、老人は寡黙ながらも青年を見つめる目は優しかった。老婆はその様子を見て安らかな微笑みを浮かべる。


 半刻過ぎたぐらいだろうか、それを破るかのように老婆の言葉が部屋に響き渡る。


  「一体どんな経験をしてきたのかしらねぇ」


  その言葉を聞いた老人もふと三日前のことを思い出した。


  この奇妙な青年との出会いを。

 



  老人ーーイリューはその日も日課である木を切る作業をしていた。

  昔は冒険者だったイリューが三十半ばになった頃今の妻と知り合った。お互い冒険者だった為すぐ意気投合した。

 色々な依頼をこなきてきたが、もうこの歳になるとそろそろ落ち着くべきだと彼は感じた。


 彼女も喜んだため、引退して妻の故郷であるガガム・トムラに移住することにした。

 

  そして移住すること三十年、夫婦仲良く二人の息子を育てあげ、時たまに襲ってくる魔物を撃退し、村人の力となっていた。


 そんな生活を送るうちに今や村になくてはならない存在となっていた。



  ただ力溢れていた彼も六十五を過ぎたあと、少しづつ身体の衰えを感じていた。


  きっかけは腰の痛みだった。年々痛み出す腰に耐えきれず、さらに身体中に力が入らなくなる。


  色々なことを息子に任せるようになっていった。


  ただ性格が何もしないことを許さない。息子が止めようともやめない木を切ることだけが、イリューの日課であり趣味であり全てだった。


  「(確かに斧を振るうと腰が痛む)」


  腰が痛くて引退した父を理解出来ない息子の気持ちも分かってはいる。

  ただこれは俺にとって唯一の誇り。息子達には自分が冒険者だった頃のことをあまり語ったことは無い。

  自分がよく使っていた武器のことも。知らないことを責めるつもりはない。



 それでも。



  「斧は俺の魂なんだよ」



 ポツリとそうつぶやいた イリューの声が森中に響く。

  いつもなら何事も無くそのまま作業に戻っていただろう。



 いつも通りであれば。



 木々の間に何かが通り過ぎる音を老人は見逃さなかった。



  老人は荷物を足元へ下ろし、斧を前へ構える。

 腰がやられていようと痛むまでは耐えきれるはずだ。


 斧を持った両手を身体の前へ突きだし右足を少し引く。この歳では力も出ない、かと言ってもしもし魔物が出てきた場合攻撃を避けることも難しいだろう。






  振りおろせないなら、振り上げる。






 ただの老人なら難しいだろうがイリューが自らに与えられし言葉と能力を理解していた。


 彼が授かった「言葉」は CONCENTRATION。


 意味は集中、唱えた瞬間に今まで貯めていた力を通常の何倍にして対象に解き放つ事。魔法使いにならないことを何人もの友人に言われながら。


 自らの危機を救ってきたこの言葉に常日頃から感謝をしていた。


  村にはイリュー以上に腕っ節が強い人物はいない。

 息子達は二人とも力より頭脳タイプで魔物との戦闘経験がない。


「(俺がここで食い止めないととめないと村に被害が行く・・・」)


  音は少しずつ距離を縮めるようにこちらに近付いてくる、森は生い茂っており音の正体が見えない。



  だからこそいつでも動けるよう、こちらから先手を打てるように構えておく。しかし正体がわからなければ、対処しようがないのも確か。



  イリューが考えているその瞬間、目の前の茂みから音の正体が飛び出してきた。



  斧を構えて言葉を唱えようとしたその時。




  「み、水・・・」



  飛び出してきた青年は必死そうにそう言い残すと、全身の力を使い切ったかようにイリューの前で倒れ込んだ。



初投稿です。読みにくい等感想がありましたらコメントよろしくお願いします。

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