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歌う聖女

作者: 東雲 紫雲
掲載日:2017/12/24

優しくも力強い歌声が響き渡る。

高らかに歌い上げるその声に人々は感嘆の声をもらす。

あるものは聴き入るように目をつむり、あるものは感動涙を流し、またあるものは目を輝かせ身体を揺らす。

寂れた村に活気が広がる。思い思いに人が集まり、やがて賑わい出す。

その歌声は人々を癒し、人々を勇気付け、人々に明日へ歩き出す力を与えた。

その歌声は人だけに留まらず様々なものに好かれた。

その地に住まう動物達、森の木々や大地、果ては精霊までも。

その歌い手はやがて人々からこう呼ばれるようになる。


"歌う聖女"


彼女の歌声は人々に力を与え、人々を活気付け、村を町を引いては国を豊かにする。

彼女の歌声は木々や動物達に力を与え、実りを豊かにし、動物達が賑わう森とする。

彼女の歌声は大地や海に力を与え、豊穣大地と海をもたらし、豊作や豊漁を約束する。

彼女の歌声は精霊に愛され、精霊を導き、時に癒しをもたらし、時に災厄を退ける。


そのような話がまことしやかに囁かれていた。



ある寂れた村に歌声が響く、その歌声に励まされ村人達は必死に痩せた大地を耕し作物を育てました。その歌声は雨を呼び、大地を力付け、村人達を励まします。

歌い手は美しく、そして豊かな表情を持った魅力的な女でした。

しばらく前に女は旅の途中で寄ったこの村にいつき、歌だけでなく活発な行動力を持って村に貢献し、村の大人、子供、老人にいたるまで好かれるようになっていました。


次第に村は活気付き、豊かとは言えないまでもなんとか人々が暮らしていける環境が整い始めていました。

そんなとき"歌う聖女"の噂を聞きつけたある国の王子とそのお供が女の元を訪れ、そして彼女に必死に願いました。

「どうか我が国をお救いください。我が国の王様が原因不明の病に倒れ、さらには強大な魔物の脅威に晒されているのです。そのお力を持ってどうか。」


彼女は悩みました。その国の窮状を知り、彼女の力が助けになるのであれば力になりたいと思いました。

しかしまだまだこの村は困窮した状態です。今自分が離れていいのだろうかという思いがありました。それに何よりこの村が気に入り、ここで暮らしていきたいと思っていたのです。


そんなときその村の男は女に言いました。

「この村はもう大丈夫です。貴女のおかげで村人達は活気付き、作物は実り始めました。」

男の言葉に村人達は一斉に頷きました。さらに男は話続けます。

「今貴女の心は王国を救いたいと言っているのでしょう?」

女は迷いながらも瞳には強い意志を持って頷きました。

「なら、貴女の心に従ってください。私たちは次に貴女がこの村に戻って来るまでにきっと貴女が驚くほど豊かな村にしてみせます。」

村人達と女はしばしの別れに寂しげにしかし明るく笑い合いました。


女は王子達に願いを引き受けることを告げました。

王子一行は喜び感謝を彼女と村人達に告げました。

「ありがとうございます。このご恩は忘れません。我が国を救っていただいた際には最大限の礼を持ってご恩に報いたいと思います。」


このあと女は王子一行の馬車に乗り、しばしの別れを村人達に告げます。村人達は暖かく彼女を見送りました。



女は王国へと出向き王と謁見します。

そこで彼女は歌を歌い、病に伏した王様から病魔をしりぞけました。

さらに女は歌を持って精霊の力を借り強大な魔物をしりぞけました。

それだけではなく弱った王国の国民の前で歌って回りました。


王国中の人々が女に感謝し、その歌声に聴き惚れ、そして女の容姿や人柄に惹かれました。王様も女に感謝し、女をもてなしました。

女は自分の役目を果たすことができほっとしました。そしていち早くあの村に帰りたいと願いました。


しかし、王様はなかなか村へ返してくれません。王子へも訴えましたが

「まだ我が国の民は弱っているのです。どうかもう少しだけ力をお貸しください」

と言われ取り合ってもらえませんでした。

来る日も女は歌を歌って回り王国中を活気付けました。王国は誰から見てもう女の力は必要ないほど活気付いてきました。


今度こそと女は王様と王子に村へ帰る許可を貰おうとしましたが取り合ってもらうことはできませんでした。


王様は女の歌の力でさらなる国の発展を得ようと考えたのです。

王子は女の美貌に惹かれ、女を妃に迎え入れることを望んだのです。

そうして思惑が重なり、王子は女に王子の妃となり王族に迎え入れたいと告げました。

「私の妃となり国を支えていただきたい。何より私は貴女に恋をしてしまいました。貴女と離れるなどもう私には考えられないのです。きっとあなたをこの国で何不自由なく幸せに暮らせるようにしてみせます。」


しかし、女の心はあの村にありました。女は申し入れを拒否し村へ帰ることを望んだのです。女は一人旅にも慣れていたので自力で村に帰ることにしました。


ですが王様も王子もそれを許さず、女を城へ半ば幽閉する形で閉じ込めてしまったのです。女は嘆き悲しみ1日を城で過ごす日々を送りました。



そうしてしばらくすると国民から不安の声があがります。


「歌う聖女様はいかがなされたのか。」

「もう一度歌を聴かせていただきたい。」

「ご病気にでもかかられてしまったのか。」


王様と王子は一向に受け入れない女に困惑を隠せません。


「この豊かな暮らしをなぜ拒むのか。」

「あの村よりよほど王国の方が貴女を必要としている、もちろん私も。」


しかし、女は頑なに拒みます。

遂に国民の声にも抑えが効かなくなり女に民の前で歌うことを願いましたが女はもうわたしの力はこの国には必要がないと拒みました。


そして女は閉じ込められた部屋で1人悲しみの歌を歌います。その歌声に精霊が答え、女を王国から逃すため閉じ込められた部屋の扉を壊しました。そして女は城から逃げ出しました。


ですがそれを許さない王様が女に追手をかけました。

"歌う聖女"としてではなく国に弓引く"災厄の魔女"としてその身を葬るために。


王様の言葉に踊らされ今まで女を賞賛していた国民達も手のひらを返すように彼女に当たります。

石を投げられ、弓を入られ、剣で追われます。


そんな状況に陥っても女は人を傷つけることができず逃げ続けます。しかし非情にも王国からの追手は彼女を追い詰めました。


連日追い回されたことにより水もろくに飲めず歌うこともできませんでした。

女が諦めかけたその時、助けが入りました。

それは女が目指した村の男でした。女の窮状を知った男は女の元に駆けつけたのです。とはいえ村の男は1人が来たところで事態は好転しません。罠を貼り、女を担いで逃げることで追いつかれるまでの猶予を少し稼いだ程度でしかありません。

ですがここで思わぬ事態が発生します。女が退けた魔物とは別の魔物が王国へと進行し始めたのです。

それだけではなく王国へ土砂降りの雨が降り注ぎ、急ぎの対応を求められる事態となりました。

そうこうするうちに女と村の男を見失ってしまいました。

王様は王子に女のいた村の場所を聞き出そうとしましたが王子は拒みます。

「私はは間違っていました。彼女を村へ返すことが彼女は返せる最大の恩義だったというのに自分のこと心に囚われてしまいました。せめてこれから彼女が安らかに暮らせるようにしなければならない。それにいまは国の一大事です。私達の手で乗り越えねばなりません。」

そう言って王子は王様に女を追うことをやめさせたのです。



その王国は後に土地が瘦せ細り、人々が去り、衰退の一途を辿ることになるのであった。



その村は貧しくも活気に満ち溢れ、村人達が一生懸命村の発展を目指した。

やがて村は大きくなり1つの国となる。

この国では大人や子供や老人の賑やかな歌声がよく聴くことができる。

この国の王と王妃はそれを優しい笑顔で見守るのであった。


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