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若さと青さの無鉄砲



ナツメグです、お世話になっております!


まともな小説はほとんど初体験にも関わらず、少ないながらもブクマなど頂いてありがたい限りです、これからもよろしくお願いします!


今回も更新が遅れ申し訳ありません、その分…ではないですが、今回もボリュームたっぷり!



あれ?こいつ場面転換が苦手なだけじゃね?な第9話!スタート!






「…………」


「…………」



帰りの馬車の中、またしてもシエルは言葉を発しない。


けれどシオンは、そこに居心地の悪さを感じはしなかった。



「…すー…すー…」


「…ふふ」




シエルは考え込んでいるのでも、緊張に口を縫い合わされているのでもない。


ただ、これまでの数日間の道程での疲れから解放され、眠りに落ちているに過ぎない。




「…優しい顔してるわ」




うっすらと笑みの浮かぶその緩んだ口元。


それは紛うことのない、シオンの知る、いつものシエルの顔だ。




「…………」




「(え?アルシエルさんと同居ですか…双方了解があるのなら問題はありません…へぇ…)」


「(何?あんたも差別主義?)」


「(あ、いえ、私は獣人に思うところがあるわけではないので…ただ、)」


「(ただ、何よ)」


「(ふふ、お二人ちょっと似てるなって思ったんです、雰囲気とか…それだけです)」




役場で住民登録する時に、係員の女性と交わした会話だった。




「…どこがだってんだか…」



お世辞にしてもナンセンスだと思った。


自分のような頭の弱い女とシエルに似ているところなど一片とてあるものだろうか。



「理解できませーん…」



伸びを一つして、シオンもシートに身を預ける。


相応の覚悟こそしていたものの、予想以上のハードワークに、現代っ子シオンの体は悲鳴を上げていた。



街までのほんの数時間ではあるが、微睡みの奥底へと誘惑に従い落ちていくのだった。











「ありがとうございました!」


「どうもー…ふぁ…」



先に起きていたのはシエルだったらしく、シオンが目を覚ましたのは、街に到着しシエルがシオンの体を揺すってからだった。



「あいよ、お客さんたちもあんなとこまでお疲れさん、ゆっくりすんだよ」




馬を引き手を振りながら去っていく御者の男。



「…………」



結局彼も、シエルのことをどうこうと言いはしなかった。




「…なんなのかしらね」


「え?」


「独り言よ」




シオンにはまるでわからなかった、何もかも。



頭の中はもうぐちゃぐちゃだ。


通りを往く人々の喧騒と数日分の疲労に思考が遮断される。

考えたいのに、考えたくない、そんな気分だ。




「行きましょうか」


「…ん、そうね」



一先ずは果たした依頼を報告する為に冒険者ギルドへと足を運ぶ。


回収した遺品の重さも、今は苦にならない。



この重さを待っている人がいるのだ。


伝えるのが辛い結果であっても、最後までやり遂げなくてはならない。







ギルドに辿り着く。


数日ぶりに見るその木製の扉を手で押し開け、ギッと音が鳴る。



その古めかしい音の響きさえも、帰ってきた実感になる。




「「「!!!」」」



中の冒険者たちがざわめきだす。





「依頼の報告に来ました」


「ただいま」



今度は連中が音を立てて総立ちした。


またしても騒ぎ出して揉みくちゃにされるかと思っていたが、今回は少しニュアンスが違うらしい。



「おぉー!お嬢ちゃん!無事だったか!!」

「シエルちゃんが一緒とはいえ心配してたわよ!!」

「アルシエルさんよくあんなのやっつけたっスね!」




驚いたことに、ここにいる全員が、二人の心配をしてくれていたらしい。



誰も彼も、同じようにして立ち向かい、敗れ、涙を飲んだ。



その苦しみを、その困難を知っているからこその、同業者としての…いや、苦楽を共にする仲間としての、思いやりだろう。




「何よ!気持ち悪いわね!なんともなかったわよ別に!」


「まぁまぁそう言うな!みんなどんだけ大変か知ってるから心配してんだ!怪我してないか?」


「だー平気だってば!おいちょ、どこ触ってんだオイ!」






「シエルちゃん、大丈夫だったの?!」


「まぁ大したことはありませんでした、シオンさんが吐いたくらいのもんですね」


「吐い…あぁ…初めて見るのがアレじゃあね…」


「ともあれこれでしばらく東の洞窟は安全でしょう」




すっかり馴染んだ冒険者仲間達と再開の言葉を交わす。


優しくて、温かい…。



シオンは、自分が求めるものの輪郭を、この空間の中にぼんやりと感じ取るのだった。






「依頼報告です…目標を発見するも死亡が確認されたため遺品を回収、遺体は処理しました」


「これがその遺品ね…御遺族にキッチリ渡してちょうだいね」


「はい…はい…承りました、報酬は依頼者が直接払いたいとのことなので、後日連絡します…その折はまたこちらにお越しください」




辛いことも多々あったが、無事に成し遂げることができた。


思えば店を開くために必要だったこの依頼ではあったが、知らず知らずのうちに、店のためだけでなく、真剣にこの依頼と向き合っていた。



きっかけはどうであれ。


そこに込められた気持ちに向き合う。



依頼とは、条件として提示するにしても、金策程度として請け負うにしても、


その思いに真摯に応えられなければ達成することは出来ないのだ。




「(そうか…)」



なればこそ、ここに集う人間とは、冒険者とは。



「(だからか…)」



誰よりも、人の心に敏感な人間たちであった。










ギルドを立ち去り、表通りは夕焼け色に輝く。


帰り路を急ぐ主婦、学校帰りの子供たちが、長く伸びた影と追いかけっこしていた。




「いい人達ね、本当に」


「シオンさんも、そう思いますか」


「そりゃもう」




世界の人がみんな同じなら…


そう思いたいが、そうはいかないのが現実のもどかしいところだ。




その道のりは果てしなく遠い。


けれど、その一歩となる小さな変化が、これから起きようとしていた。




「いるかしら」


「!!…あなたたちは…」




役場でデスクに向かうその男は、シエルたちに依頼の受領を頼んだ例の男だった。



「…行ってきました」


「…兄は」



シエルは、黙って首を横に振る。


申し訳ない、というように。




「そうか…いや、そうだろうな…」


「…ギルドの方には報告しておいたから…そのうちお母さんも知ることになるわよ」


「母も…覚悟はしているでしょう」




男の目尻から涙が伝う。


例え予想できていたとして、改めて事実を突きつけられれば当然の反応だった。



わかっていたこと。

だが、わかりたくなかったのだ。




「…衛生管理局には既に話を通しています…後日局員が向かいます」


「…ありがとね」


「…それから」



男が、シエルに向き直る。


目を合わせようともしなかったシエルを、真正面から見据える。




「…ありがとう」



スッと、頭を下げる。


そこにはもはや、恥や屈辱といった感情は一切としてない。



純粋な、感謝の気持ちだった。


彼の中で、何かが吹っ切れたのだろう。




シエルの話を聞いた今ならわかる。


彼が、獣人というだけであそこまで嫌悪を抱いていた理由が。


肉親を奪った魔物、その魔物と同一視される獣人…だからこそ。




だが今の彼には、そのように獣人を恨む気持ちは感じられない。



「今までの非礼を詫びます」



彼は、きっと、もう感じていたのだ。


二人が依頼を受けた、そのときから。




「アルシエルさん、あなたは…いえ、獣人は汚れた魔物などではない」



話せるということ、その意味を。





「大切な、この街の…この国の、この世界の住人です」







「…はい!」



シエルは、きっと今、これまでの人生で最も輝いた笑顔をしている。


短い付き合いのシオンでもわかる。



だって、こんなにも。




「(…私も嬉しいんだもの)」




わだかまりも消え、晴れ晴れとした気持ちで役場を後にした。





「先に話を通してるなんて、意外と素直なんですね、あの人も」


「あんたの評判を聞いてれば依頼なんてまず間違いないと思ったんじゃないの?」


「…獣人なのに?」


「腕前は最初から認めてたでしょ、あの人も…それに」


「それに?」


「もともと、おかしいことはおかしいって、言える人だったんじゃないかしらね」




彼のような人はきっと多い。


本来正しいはずの感性、それを歪めるような事件に屈してしまった人。



彼の一方で女性係員はなんとも思っていなかった、というのもきっとそういうことだ。




獣人差別がいつ始まったのか、何がきっかけなのか、それは定かではない。


けれど、間違いは間違いと言える若い人間が育っている。



小さな変化が、やがて大きなうねりになると信じよう。




「ー!ーーー!!」


「…………」




だが一方で、まるで考えを改めようとしない人間がいるのもまた、事実だった。



それはきっと、一生魔物や獣人への恨みを抱かざるを得ないような出来事に直面したから、ということもあるだろう。



だが悲しいことに、全員が全員、理由があって嫌っているのではない。


理由があればいいというのでもないが、そもそもの問題として、潜んでいるのだ。




「ワケもなく、便乗してるだけのヤツがね」


「…?あっ…」




「あらお嬢ちゃん、またそんな汚いのと歩いてんのかい!」




声が大きいから、すぐにわかった。


いつか会った、口の汚い露店の店主だ。




「あんたも物好きだねェ!とっとと縁を切りゃあいいものを!」


「…………」


「…シオンさんっ」






シオンは、もともと気が長い方ではなかった。




「♡←\&|♪&<'>’←Д」


「大丈夫ですから、ね?行きましょう」


「…………」






シオンは、悪ノリは嫌いではないが、度を超えることと人を傷つけることだけは許せなかった。




「|♡♥<`||>>≦≦<|>!!!」


「…………」


「シオンさん!」






シオンは、どんな理由があっても、友人を悪く言われるのが嫌で仕方なかった。




「∀‼∧≪+♥♪\<≦-」


「………!!」


「シオンさ…ッ!!」



挿絵(By みてみん)








そしてシオンは、一度荒れると手がつけられない人間だった。

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