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私にできないこと、私だからできること


ご無沙汰してます、ナツメグです!


センター試験の方はお疲れ様でした、私もそうでしたが…



さてさて今回はバトル回…に見せかけた…と見せかけた…?


展開がコロコロ変わってごめんね(´・ω・`)



それじゃ第8話!どうぞ!



「う゛う゛ぅっ…!!」


それに、耐えられるはずもなかった。



「う゛ぇ…ぁ…っ!」



そもそもシオンの拒食は完治したわけではない。

多少の緩和こそできたものの、それでも体がまだ全てを受け入れられるわけではない。



そんな状況で、



「(きっ…気持ち悪い、気持ち悪い、気持ち悪い…っ!!)」



見るは不気味、聞くはおぞましき恐怖を体現したような化け物に出くわせば。




「(…っ、シエル〜…早くやっつけて…)」




さすがのシオンも、形無しだ。











「行きますよ」



シエルが息を吐くように漏らした一言がゴングになる。



「ウ゛ゥ゛ゥ゛ァ゛!!」


地鳴りのように轟く咆哮と共に、変異体がシエルに食いかかろうと飛びつく。




「届きません!」



シエルが手を振りかざした。


それだけだ、それだけにしか見えなかったが。




「ア゛ア゛ア゛!!」



見えない壁に阻まれたかのようにして、魔物が、飛びついた勢いそのままに正反対の方向に吹き飛ぶ。



巨躯が岩石を打ち壊しながら洞窟内を飛びゆく様は、さながら冒険モノ映画でよく見るような巨大鉄球が転がるトラップを作動させたかのようだ。




「磔にして動きを止めましょうか!」



シエルが何かを唱え、高らかに掲げた腕を振り下ろす。


その動きに同期するようにして、幾十もの光を帯びた巨大な針が魔物めがけて降り注ぐ。




「ェ゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!ギュ、イィィ!!」



その針に縫い付けられたためか、コンマ数秒前までとてつもないスピードで吹き飛んでいた魔物の動きがピタリと止まる。



その次の瞬間、いや、殆ど同時のタイミングで、シエルの腕が中空に文字を描き出すようにふわりと動く。




「飲み込め」



一つ呟き、魔物に突き刺さる針が、ズブリと音を立てながらその身体の中に侵入していく。






「溶け出せ」



二つ囁き、魔物の全身が針と同じ黄金色に淡く輝き出す。







戦闘が始まってから、一分にも満たない。





否、満たなかった。







「膨れ上がれ!」







三つ叫び、魔物の身体、その至るところが泡のようにボコリボコリと膨れ出す。


その勢いは留まる所を知らず、何秒もかからないうちに、原型さえもわからなくなった。



内側から肥大化し、肉体のキャパシティを越えた黄金の針は、






「さようなら」






汚い肉片を、鮮やかとも思わせるかのような輝きと共に打ち破り、魔物諸共爆ぜ散った。












「う゛ぇ゛ぇ゛!!」



結局もう一度吐くことになった。


なんなら昨日から食べた分より多いくらい吐いたかもしれない。




「じ、じえ、し゛え゛る゛……」



岩陰から身を乗り出してヨロヨロとシエルの下へと歩くと、シエルもまた振り返ってこちらに微笑む。



「終わりましたよ、シオンさん!」


「う、うん…すご、すごいゥェエ゛ッ!!すごいけど、もうちょっと、い、胃に優しく…ォァア゛ッ!!」




初めてにしてはなかなかにハードな殺戮を目の当たりにしてしまい、シオンの口の中はもう胃酸の酸っぱい味でいっぱいになっていた。


何か言う度に17の女の子とは思えない重低音と共に栄養を大地に還元するシオンの姿は、




「…なんだかモンスターみたい…」


「な、なんですって大体あんな気持ち悪ゥゥウ゛ウ゛ウ゛!!!」




ちょっと休まないと無理っぽかった。












「それじゃあ、当初の目的通りに探すとしましょう」


「…ッス-…ス-ッ…ふぅ…うん、大丈夫、行きましょ」



休憩と入念な深呼吸の末落ち着きを取り戻したシオンは、再びランタンを手に持ち歩き出す。



道中は相変わらず歩きにくく疲労を加速させるものの、明確な危険が排除されたことで気持ちとしては相当余裕が出来た。


そこでシオンが、聞きたかったことをシエルに尋ねるのだった。




「結局…魔物って何なの?」


「はぁ、何、ですか」


「うん、あれこそまさしく空想上って感じなのに」




シエルの息もつかせぬ魔法の嵐に感嘆するのもいいが、そもそも魔物とは何なのかが気になる。


魔法、獣人、魔物…この異世界にはあまりにも不可思議が多すぎた。




「魔物というのは…魔力に当てられて、脳や体細胞に大きく変容を起こした動物です」


「ど、動物?!あんなのが?!」


「はい、ですから、《魔法動物》…縮めて魔物と呼びます」


「な、なるほど…」




シオンの知っている動物とあまりに違いすぎて、両者は別の生き物のように感じられたが、元を辿ると、どうやらその知っている動物にあたるらしい。




「もちろん全部があんなのではありませんよ、あれは更に変異を起こした特例です」


「あんなのばっかり湧いてくるんだったら胃が持たないわよ…」


「ゲロイン…」


「あ゛ぁ゛?!聞こえてんのよ!!」





他愛のない会話を交わす程度には心に余裕を取り戻した二人であったが、



「…私達獣人も、魔物なんです」



シエルが唐突に漏らした一言が、場の空気を変える。




「…え?」


「私が隠している動物の耳も…獣人が魔力によって変化した、第二の人類である証みたいなものです」


「で、でもシエルは!」


「獣人は人間に限りなく近いからです、元が人間と同じですから…知性も、身体能力も変わりません」




人間が、大きな枠で見れば動物であるように。


獣人もまた、大きな枠で見れば魔物であった。




「でも私たちは自分を人間と同じと思っています…だから、魔物だって殺しますし…人に嫌われても人を嫌いはしません」


「…それなのに…?それなのに…シエルたちが…」




対話ができるのに、しようとしないのは。


何もされていないのに、一方的に恨みを向けるのは。



その生まれが、その身体が、魔力による変化を受けているからという、ただそれだけの事実を嫌っていたからだった。


人間だって、魔力を制御し、魔法を使うのに。


獣人だって、知性を持ち、言語を操るのに。





「私たちは元々、身体に起きる変化も、要因となった魔力も微々たるものなので…変異体なんてのも産まれないんですけどね」


「…それなのに、そんなのおかしいじゃない」


「魔物に家族を殺された人もいるので…矛先が向くのも…仕方ないかもしれないです」


「…おかしいよ…」




差別に屈せず人と生きようとするのが魔物で、


理不尽な差別をまき散らし争いの火種を生み出すのが人間様なら。




「…おかしいじゃないの…」



そんなものが、一番の不可思議だ。













「…この人、かしら」


「やっぱり…ダメ、でしたか」



丁度、魔物がやってきた辺りだった。


そこには、志半ばで倒れた冒険者の骸が横たわっていた。





「…遺品を回収しましょう」


「…この人は、どうにかしてあげられないの?」


「…終わったら、私が焼きます…こんな形ですが…火葬して、ちゃんと埋めましょう」




今回でシオンも理解した。


この世界で生き残ることの辛さ、難しさ。




しかし、だからこそ死を軽んじてはならない。


いついかなる時、いかなる場であっても、誰かがその最期を看取るべきなのだ。




「それじゃあ…離れていてください」


「いいえ」




死から、目を逸らしてはならない。




「私も一緒に見る」







目的を果たし、洞窟の外に彼の遺骨も埋めた。


簡素ではあるが墓標を立て、祈りを込めて黙祷を捧げる。



「…もう、犠牲者は出ないのかしら」


「魔物だって動物と同じように子を産みます…いつかはまた変異体が産まれるでしょう」


「…そか」




魔物。


その全てが人に有害なのではない。



いや、そもそも有害とは何だ?無害ならいいのか?



魔物とは、何だ?




人間中心の思考から抜け出すことは難しいだろうし、実際最も繁栄した生き物は人間だ。


では、人間とは、何だ?




それは、自分たちで決めていいことなのか?


もう、何もわからない。




わからないけれど。





「…届けましょう」


「…え?」




世界を変えるなんて幻想に過ぎないかもしれない。


戦争を止められるなんて夢物語かもしれない。


差別なんて到底抗えるものではないかもしれない。



それでも、出来ることをやるしかない。



大したことはないかもしれない。


けれど、






「気持ちごと、全部を」





私だから出来る形で。




「せめて、このお弁当に乗せて」






奇数個備えた弁当は、予備なんてつもりで持ってきたわけではない。










洞窟から外れ、街の直線上に当たるそこへ。


とある男が、街を見守り安らかに眠る地へ。





「お弁当を、届けに参りました」









ごゆっくり、どうかごゆっくり。




「「お召し上がりください」」




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