急転直下の非日常
ずっと虚ろだった。
目に光はなく、
四肢に力は入らず、
明日に希望も抱かなかった。
日々を惰性で過ごし、死ぬ勇気がないから生きているだけ。
そこに意味はなく、そこに理由はなかった。
「…………」
今の少女には名前だけしかなかった。
残された、否、
遺されたのは、大切な名前だけ。
少女は、何も食べられない。
いや、食べられても、身体が吸収を拒んでしまうのだ。
食への、恐怖だった。
「…………」
これから始まるのは。
美味しそうな食べ物を描写するグルメ物語でもなければ、
食で勝敗を競う料理物語でもない。
一人の少女が突如巻き込まれる新たな喧騒と動乱の日常の中で、
「温もり」を広げゆくために足掻くだけの、
そんな、不器用で遠回りな物語。
「…?」
その物語はここから始まる。
「な、なに…?」
暗く狭い小さな部屋の中に現れた、
「?!す、吸い込ま…れ…!?」
ちょっとした、時空転移魔法から。
「っひ、ひゃ…ぁあああああ?!」
かくして、失ったモノに嘆く彼女が前に進む為の推進剤が吹き込んだのだった。
変わるための何かが、その光の先に待っていた。
「やっ、やぁぁああああ!!」
ぐにゃりと曲がった空間に吸い込まれた彼女の小柄な身が、夢の中のような不思議な空間を泳ぐ。
何が起こった?
どうしてこうなった?
頭の中がぐるぐるだ。
ただ流れる夢想空間を目で追いながら身を任せる他なかった。
そしてものの数十秒もしないうちに、
「…出口…?」
最初に部屋で見た光と同じようなものが眼前に迫っていた。
その光に、
手を伸ばし、
「ひゃっ!!」
そのまま、顔から地面に落ちた。
「ったた…」
「やたー!せ、成功しました!ついに別次元と繋がりましたよぉ!」
「?」
目の前に人がいる。
地面に突っ込んだ痛みでそれどころでもないが、この奇々怪々極まりない事象の原因となった人間だろうか。
「ほ、ほんとは私が直接行って交渉すべきだったんですけど…ゆ、誘拐みたいになってしまいました…!こ、これから話して決めましょう!よし!」
「…な、なんなの…」
まず目に入るのは石造りの床。
アニメやゲームで見る中世風の建物のようだ。
そして、どこか古めかしい雰囲気のある調理器具。
厨房か何かだろうか。
「オホン…す、すみません!」
「へ?」
目の前に立つ、少し年上のように見える女性が呼びかけてくる。
「わ、わたひ、私と一緒に!お、お弁当屋さんをしてくだしゃい!ください!」
「…はい…?」
ここが、突如異世界に放り出された17歳の少女、
飯田枝温の、
ターニングポイントだった。
「…えっと、なんて?」
「…噛んじゃいました」
初めまして、ナツメグと申します!
この度はイセカイのお弁当屋さんを開いていただきありがとうございます!
たとえ読まれないとしても、興味を引くことができたのなら幸いです!
さてこの物語は、作中でも言われた通り、グルメ系ではありません。
食べ物にスポットライトを当てることよりも、食べ物というきっかけ、手段を用いて、小さな少女達が大きな世界に何ができるか?というのがメインになっていきます。
そしてジャンルもまたファンタジー。
おや?ということはバトルも…?
「これもう弁当でも何でもねーじゃねーか!」というくらいにまでハチャメチャにやらかすかもしれません!
よろしければ今後もよろしくお願いします!