雨のち晴れ
もう廃線になったバスの停留所。
元は水色だったベンチに座って、ざあざあと降る雨を先輩と二人で見ていた。
「雨、止まないな」
「そうですね……」
「通り雨だって言ってたのになぁ」
溜息をつく先輩に少し後ろめたかった。
私はまだ止まないでほしかったから。
まだ先輩といたいから止まないでほしいと願っていたから。
たかだか一人の願いを神様が叶えるわけもないけど、不思議と雨は降り続いたままだった。
ざあざあと降る雨がだんだんとトタンの屋根に打ち付ける。
隣で先輩が空を見上げている。
その髪はしっとりと濡れ、服も肩の部分がすっかり変色していた。
私も似たような恰好だ。
でもそれ以外は違うところばかり。
私服の先輩。制服の私。
茶色に染められた先輩の髪。真っ黒なままの私の髪。
二歳年上の先輩。二歳年下の私。
せめて同じ年齢だったら。
私が先輩でこんなに悩むことはなかった。
たった二年の差を恨むこともなかった。
「学校疲れたのか?ぼんやりしてるぞ」
先輩が顔を傾けて聞いてきた。
ぽたりと先輩の髪から水滴が肩に落ちる。
それをなんとなく見ながら口を開く。
「まあ、高校生は色々ありますからね」
「そうだっけ」
「そうなんです」
雨が道路に降り注ぐ。
まだまだ止みそうにない。
「先輩はどうなんですか?」
「俺?こっちもこっちで大変だよ。講義もレポートもサークルもやることたくさんあるし、バイトは怒られることばっかりだし、この雨のせいで遅刻決定だし」
またなんか言われるにちがいないと落ち込む先輩。
でも、その姿は楽しそうで。
ちくりと胸が痛んだ。
先輩との距離がまた広がってしまった。
早く追いつこうと努力しても、先輩はどんどん先に行ってしまう。
「先輩!」
「ん?」
焦りを感じて思わず声を掛けた。
でも、私の気持ちなんて少しも気づいてない様子の先輩に勢いをそがれる。
「あー、あの、えっと、やっぱり何でもないです」
何だよそれと笑う先輩に、暇なんですと返す私。
やっぱり追いついてから言いたいから。
「じゃあ、雨が上がるまで面白い話をしてやろう。俺の大学の教授にな……」
そう言って先輩が話し始める。
私が知らない世界の話。
きらきらと輝いて眩しいけれど、私にとってはまだ遠い世界の話。
先輩との距離を改めて感じて、少し悲しいけれど。
すぐに追いつくから。
「そんなことがあるんですか」
「お前も大学生になったら経験すると思うぞ」
「楽しそうです」
「本当に楽しいから早くなれよ」
「じゃあ、」
待っていてくださいね、先輩。
少し勇気を出して言うと、笑顔が返ってきた。
私が言った意味なんて少しもわかってないくせに。
私がどんな思いで言ったか知らないくせに。
でも、嬉しくて。
私も笑顔を返した。
それから先輩の話に耳を傾けて驚いたり笑ったりしている内に雨が上がった。
やっと上がったと喜ぶ先輩の隣で、私は晴れた空を見上げて少し残念に思う。
まだまだ先輩といたかった。
もっと先輩と話がしたかった。
でも、私が思っている意味ではなくても、先輩は待っていてくれるから。
雨上がりの空の下、私は先輩に不敵に笑い掛けた。
追いついたその時は、覚悟しておいてくださいね、先輩。
「じゃあ、先輩また」
「あっ、これから時間ある?」
「へ」
「良かったらバイト先に来ない?喫茶店なんだけどさ。雨に打たれたんだし、あったまって行かないか?」
「は」
「飲み物一杯くらいなら奢るし」
「はあ」
「よし、行くぞ」
「え、あれ」
結論。
カフェに行きました。
マスターは優しい人でした。
でも先輩には厳しかったです。
紅茶とケーキが美味しかったです。
マスターの奥様の手作りだそうです。
全部先輩に奢ってもらいました。以上。




