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人殺しとしちゃあ、正直一般人よりもヤクザの方が手練れのはずだ。
俺がそう思っていたのも三年前。
そん時雨が降ってたな。
俺は雨に濡れないように屋根のある、近くの工場に入ったんだよ。
たまたま、俺は他の組のやつら十人近くに襲われて右腕の肘あたりに思いっきりナイフで刺されたんだ。
ダラダラって、血が流れてたな。
「っくそ…ついてねぇな」
後ろからコツリコツリと誰かの足跡が、近づいてくる。
緊張しながら、振り向くと二人の若い兄ちゃんがいた。
俺の右腕から垂れている血を見て、青い毛並みした兄ちゃんは、顔を一瞬青くした。
「おい。だ、大丈夫か?」
どうやら、他の組の回し者じゃあなさそうだ。
俺は右腕を抑えていた左腕を離して追い払う仕草をしたが、青い兄ちゃんは食い下がってくる。
「モララーなんか、持ってないか?」
「えー?うーん」
モララーと呼ばれた奴は表情を一切変えずにポッケをまさぐる。
そして、落胆の表情も見せることなく、無いね、と言った。
目に見て分かる程、二人の性格の反対さに腕の痛みを忘れるほど驚いた。
「あぁ。ギコ、それでいいじゃん」
モララーは、ギコのズボンのポッケから出ているタオルを指差した。
「え、でもこれ、ちょっと濡れてるぞ?」
「なんとかなるよ」
ギコのポッケから出ているタオルを奪い取ると、俺の腕にキツく巻いた。
多少濡れているせいか、タオルが重く感じる。
そんな事をしていると、二人が来た方から、コツコツと歩く音が聞こえた。
「おやおやぁ?こんなに人がおるんかぁ?」
関西弁が多少まじったような声が工場内に響く。
スーツの前を開けて中のワイシャツも、ズボンから出ているだらしない格好の男が来た。
「お友達?」
「んなわけねぇだろ!…いててて…」
笑顔で、変な事を言うからつい突っ込んでしまった。
「あらあら、仙波組の組長さんもこれで終わりかいなー。わっはっはっは!」
男は、右目が潰れているのか大きな傷がついていて、目が開いていない。
「っと…お宅はどちらさんかな?」
「忘れんといてくださいよー。ほら、隣街の竜泉組ですよー」
「あぁ。あの、クズか…」
仙波組を潰して、この街を乗っ取ろうと考えているくそったれな組だ。
俺が、戦闘の体制に入ろうとすると青い奴に腕を引っ張られた。
「ちょっ!てめぇ!」
「しー!静かにしないと、バレるぞ」
「戦いの最中に逃げたら名がすたるだっ…っう…」
腕を振りほどこうとすると、右手が思いっきり痛む。
しょうがなく引っ張られていると、モララーと男が見える程度に隠れる場所に来た。そこにしゃがみ込んだ。
物で覆われた場所から、二人の姿がなんとか見える。
「兄さん。ヤクザの事に首つっこんじゃあ、ただじゃあ、行きませんで」
「あー。ヤクザかぁ…。こちらも首をつっこみたいわけじゃないんだよね。相棒が勝手な事するから…さ」
俺は隣にいるギコを睨むと申し訳なさそうに耳をペシャリと垂れている。
物の隙間から、再び二人に視線を移した。
「まぁ、なんでもええねん。そこ、退く気あるんか?」
「……残念だけれど、ノーって言う返事かな」
男は、ポッケから、折りたたみのナイフを取り出した。
取り出したナイフを片手で弄り始めた。
「兄さんさぁ何歳や?」
「十四歳だけど…。あんたの歳には興味ないけど、歳の差は凄いだろうね。
力では、負けるかもだけど…」
モララーは、挑発的に笑うと自分のこめかみをトントンと叩いた。
「ここでは、負ける気しないんだよね」
「喧嘩に頭はいらないんや!」
男は、モララーの挑発に乗ったのか足を踏み出した。
「っくそ…あいつ、ヤクザの強さわかってんのか!?」
「あいつは、ヤクザより強いよ」
「はぁ?」
ギコは、俺に目もくれず二人の戦いの様子を眺めていた。
助けに行きたいが、お生憎様俺の利き手の右腕は、全く動かないから何も出来ず、二人の様子を見ているしかできなかった。
モララーは、男のナイフさばきを冷たい目で見ながらよけている。
「あんたを、殴っても。倒せる気はしないなぁ」
「ったりめぇだろぉ!こちらとらぁ、ヤクザや!」
「でも、殺しの腕は僕の方が上かな」
「あ?ーーーーなっ!?」
モララーはどうやら、ホルスターを付けてたらしく、そこから銃を取り出すと隙を見て男の眉間を撃った。
その速さは尋常じゃない。
早撃ちでも極めてるのか?
眉間を撃たれた男はピクピクと痙攣をしていたが、やがて動きが止まった。
「もう大丈夫でしょ」
「おー。お疲れ様だ」
ギコに、左腕を引っ張られて俺もつられて立ち上がった。
「助けてもらって、悪いな…」
「そう思うなら僕から頼みがあるんだよね」
俺の顔を血飛沫のついた笑顔で覗き込む。
「金銭面で、お願いがあるんだよね」
その顔はまさしく、悪魔のようだった。
「とまあ、そういうわけで俺があいつらにお手伝いを頼んで金を渡してるってわけよ。理解できたか?エゴ」
「えぇ!それは、もう!とりあえず、彼らが凄いって事はわかりました!」
…話聞いてんのかね。
エゴは机の上で手を組んでにこやかに笑っている。
事務所の中は何人か仲間たちが居て、トランプや人生ゲームやら、いろいろ遊んでいる。
一つの小さな窓と、ドアとテーブルと椅子しかないこの部屋では、各自いろいろな物を持ってきている。
俺は端っこのテーブルにエゴと二人で座っている。
「質問なんですけど…彼らって殺しが好きとか…そういう?」
「いや…俺はあまり知らないが殺しが好きなのは…多分」
エゴが緊張した顔持ちでこちらを見てくる。
「モララーの方だな」
「ギコさんは?」
「ギコは好きではないだろうが、中々の手練れだ。あいつらは、相当気が狂ってる」
口の端がつり上がって行くのがわかる。
あいつらは、仲間だ。
でも、心のどこかではあいつらを倒したい。
殺したら多分すごく、辛い気持ちになるだろうが、その倍。
幸せな気持ちになれるのだろう。
「くくっ…俺も相当狂ってるんだな」




