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神とクズ  作者: 葉月
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5

「あー…もしもし?モナーさん?」


「あ?朝っぱらから、何のようだよ」


電話の声はとても、不機嫌そうな声だ。

朝っぱらと、いうが今の時間は九時をすぎている。


「いや、一昨日モナーさんが壊したドア直して欲しいんだけど…」


「あぁ?あー。ん。わかった。修理出来そうな奴やるよ。お礼の金とかいらねぇからな」


そういうと、ブチりと通話を終了させられた。相変わらず、自由奔放な人だ。

未だ隣で寝ているギコに目を移す。

布団を蹴飛ばしだらしない格好で寝ている。

僕は気晴らしに外に出ることにした。


しばらく歩いて行くと、人が賑わってる場所に出た。

周りには様々なお店が並んでいる。食べ物の匂いと、人の匂いで僕のあまり好きではない匂いになった。


「おい!フォックス様だぞ!」


「本当か!?行くぞ!」


近くにいた、若い男性二人が走って僕の横を通り過ぎる。

人間信仰者か…とか、思いながら歩いて行くと人だかりに、はまってしまった。

街の中心部、噴水が真ん中にあり、周りは木が何本もある。

男は噴水の前に立っていて、周りには何人か黒いスーツを着て、サングラスをしている人が居る。

その人だかりの真ん中には、茶色の髪でスーツを着ている男性ーー〈人間〉が居た。


「我々〈人間〉は、人の事が誰よりも大好きだ。俺は、こうやって護衛がそばにいないと外に歩けないが、いつかこの状況を打破しようと思っている。そのためには、人の力が必要なのだ!」


笑顔でくだらないことを堂々と述べているその姿は、まさしくバカだ。

人の事が好きと言っているわりには、僕ら人のために、何かをされた覚えがないんだよね。それに、国の全員が人間信仰者になる前に国は、滅ぶだろうし、なにより…


「おや?あなたも、人間信仰者の方ですか?」


僕の思考は、近くにいた男の人の声によってかき消された。

ラフな服装のモナー族…いや偽モナー族、かな?

偽モナー族というのは、モナー族の亜種みたいなものだ。


「えっと……」


「私は人間信仰者ですよ」


「驚きですね。じゃあ、僕とは息があわなそうだ。残念ながら、僕は反人間信仰者ですね」


殺されるのを、騒がれるのを覚悟で言って見た。

ここで、嘘をついたって〈人間〉の良い所なんて、語れやしないから。これが、得策だろうと考えた。

だけど、僕の予想と反して男は、目を大きく開くと楽しそうに笑った。


「はっはっはっ。そうですか。いや、すいませんね、笑って。私は正直な人、好きですよ」


「僕は、人間信仰者は、嫌いです」


僕は顔だけで、笑った。

どうやら、騒がれることは無いようだ。

そればっかりは、本当に助かる。


「あなた…名前はなんですか?」


目尻を抑えながら男は、言った。

周りはフォックスとやらが、いなくなってだいぶ静かになった。


「名前なんてどうでもいいですよ。僕は、そんなものにこだわらないので」


「あはっはっはっは!やっぱり、私はあなたが好きだ。名前を聞けないのは残念です」


男は身をひるがえして、歩いて行った。

二、三歩してから、振り返り僕に叫んだ。


「私は、ニセ・モナールです!機会があれば、ニセと読んで下さい!」


それだけ叫ぶと、また歩き始めた。

僕は歩き始めて噴水を横切り、他の通りに入った。

先ほどの男、ニセ・モナール。

どこかで、聞いたことがある…。

あの、名前…なんだったかな…。


「…い!おい!聞いてんのか!?」


後頭部の鈍い痛みと叫び声で思考から、現実に戻った。

いつの間にか路地裏にきていて、薄暗い。

目の前の男に襟を掴まれ、壁に頭をぶつけられたのだろう。

考え事してたとはいえ、襟を掴まれるなんてまだまだ、だなぁ。


「ってめぇ!聞いてんのかよ!」


「えーっと…何の用だっけ…」


「…今ここで、俺に殺されるか所持金全て俺に渡すか、どっちか選べ!」


そういうと、僕の額に銃を突きつけた。

まだ、少しだけ後頭部がジンジンと痛む。


「あぁ。思い出した」


「……やっぱり死ね!」


「彼は確かーー」


バァンッ!!




清々しい朝だ。

時間は、きっと昼をもう過ぎているだろう。

久しぶりに目覚めの良い日だが、天気はその気持ちと反対に、雨が降り始めそうな雰囲気だった。


「おーい。モララー?」


「はーい!」


目の前に顔を出してきたのは、いつもの見慣れた顔でなく、知らない人だった。

俺は驚きのあまりそいつを殴り、左腕に関節技を使った。


「いでででででで!!じんた!靭帯伸びる!ちょっ!」


俺は相手の声を無視して、力をこめた。


「せんばっ!仙波組!」


仙波組という言葉を聞いて俺は力を緩めた。


「なんだ…仙波組か……お前みたいな奴いたかな…」


「え!?ほら、あの一昨日他の組にやられた…」


「あぁ、あのしょぼい奴か」


「しょぼっ…」


俺の言葉に布団の上で静止した。

俺はキョロキョロと辺りを見回した。

薄汚い壁、畳まれてる一組の布団、テレビ、盗まれてるのはなさそうだな。


「えっと…名前何だったけ?」


「……エゴ・ウーニャです…」


あぁ、そういえば見たことあるな。

耳の先が黒くて、線のはいってる…。

エゴは、ブンブンと頭をふって気持ちを、切り替えようとしている。


「あー…っと…え…エビフライ。何で俺の家にいるんだ?」


「エビフライ!?エゴです…。いや、モララーさんに頼まれて、ドアを直しに来たんですよ…」


「おー。で、直ったのか?」


「はい!それは、もちろん!」


エゴはガッツポーズをつくった。

そういえば、モララーいないな。

俺は特に気に留めず、頭をかいた。


「じゃあ、エゴ。帰れ」


「率直すぎますよ」


俺は渋い顔をして、追い払う仕草をした。

エゴが、ウダウダ言っているとがチャリとドアの開く音がした。


「おい!エゴ!仕事終わったら帰れいったよなぁ!」


モナーが、今度は普通にドアを開けて家に入ってきた。

エゴは、全身の毛を逆立てて驚いている。


「く、組長!?あ、すいません!帰ります」


うーん。

こう見ると、やっぱり上の存在なんだな。

モナーは、俺の方をチラリと向くと親指をたてた。

いや、どう言う意味だよ。

そんなこんなしているうちに、二人は家から出て行った。

先ほどまで、人が居た空間に俺しかいなくなって、どこかさみしいような気分になった。


「……暇だ。モララー遅いな」


掛け布団に抱きつきうつらうつらと、夢と現実をさまよっていたが、このままだと本当に寝てしまいそうだったので、ホッペを両手でつねる。


「ただいまー」


「おひゃへりー(おかえりー)」


「うわっ。何してんの」


モララーが俺の顔を見て笑顔のまま、眉をひそめる。

モララーの洋服には、血が点々とついていて、誰かを殺したようなあとがついている。

汚れた服をバッと脱ぐと、新しい服に着替える。


「ねぇ。ギコ」


「…あ?」


妙に真剣そうな声に頭が冷えるような感覚がした。


「頼みがあるんだけど…」


そこまで、言うと言葉を止め、大きく息を吸った。


「人間信教に入らない?」


人間信教に入るとは、人間信仰者になるということだ。


「はぁ?」


俺は、モララーの言葉に間抜けた返事を返すしかなかった。

当たり前だ、俺らがなんで入らないといけないんだ。


「お願い!」


申し訳なさそうに両手を顔の前に合わせる。苦笑いをしながらこちらの様子を伺ってきた。


「……俺は人間が嫌いだ。それは、お前もだろ?なんでお前は、入ろうとするんだ」


このかえしを予想していたかのように、不敵な笑みを浮かべる。

なんでも、お見通しすぎて逆に怖く感じるよ。そんな事言ったら怒られるだろうけどな。


「禁忌に手を染めるためだよ」


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