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これを貴方が読む頃にはきっと、大人になっているでしょう。
この手紙には、つまらないことしか書いてないと思います。
それでも、どうか読んで欲しいんです。
私の、昔話と
貴方に伝えたかった言葉を。
《お母さんは、十九歳の頃に貴方のパパと出会いました。
それは、運命的な出会いでもなくごく普通の出会いだったんです。》
「おい。何寝てるんだ?」
無神経にも顔を覗き込んできたのは、本当に見ず知らずの人だった。
私は俯いて座っていたのだが、その人が覗き込んできたから顔を背けた。
「貴方。誰ですか?父に貴方みたいな知り合い居ましたっけ?」
この日は交通事故で亡くなった父の葬式だった。
しかし、本当は交通事故なんかじゃなくて、他の人に殺されのだ。
けれど、それを取り締まるものも法律もなかったから、交通事故で済まされた。
「あー。俺は、親父のツレ。お前この人の娘か?」
本当に無神経。
亡くなった人に対してこの人は無いんじゃない?
と怒りを覚えたが、ツレと言う事を思い出し、諦めた。
彼にとってはお父さんは他人であって、私にとっては肉親だから、悲しみの頻度は違うのだろう。
「えぇ。そうよ。“この人”の娘よ」
皮肉たっぷりに、この人を強調して言うと、彼は戸惑ったように、えぇと、と言うような言葉を漏らしている。
「えっと…まぁ、その、なんだ?…うーん。あ!母さんとかいないのか?」
また、彼の無神経な一言に私はイライラする。
気の利いた言葉は、無いのか!
と頭で思いながらも彼の顔を見ることなく答えた。
「いないわよ。父が唯一の肉親だったのよ」
私の言葉に彼はまた戸惑った。
そんなに困惑するぐらいなら、話しかけて来ないでよ、と思ってはいたが、彼は私のそばを離れることは無かった。
「お前さ。お父さん死んで悲しくないのか?」
「っな!悲しいに決まってるでしょ!家族もちゃんとそろってる貴方に何がわか!ー」
「良かった。ちゃんと泣いてるじゃん。女らしくメソメソしてろよ」
私が、怒りで彼の顔を向くと、彼は私の頬を両手で挟んでニコリと笑った。
顔を見ていなかったからわからなかったが、ギコ族のようだ。
彼の言葉に、怒りと悔しさと悲しさがいっき押し寄せてきて涙がボタボタと落ちていく。
葬式が終わったばかりでまだ周りに人がいるのにこんなに派手に泣いて、きっとみんな見ているだろう。
とは、思っていたが涙は止まる気配を見せない。
「お…お?おぉ!?な、なんで泣く!?えっと…えーっと、ほ、ほら!ブドウ飴やるから!な?」
「ヒック…ヒック…こ、の…ばぁか…」
本当に無神経な奴。
《これが、私とパパの出会いでした。
私にとって最悪で最低な出会いでしたよ。
それから、何を勘違いされたか、パパのお父さんにお友達だと勘違いされ、これからも交流していかなくては、なりませんでした。
でも、私にとってそれは良い事だったのでしょう。
私が、二十二歳の時彼と付き合い二十五歳の時に彼にプロポーズを持ちかけられました》
「おぅ!しぃか!遅かったな!」
「遅いのはギンでしょ…全く」
五分遅れで遠くから片手をあげてきたのは、付き合って、三年と二ヶ月のギンだった。
ギンは、なはは、と笑うと反省の顔色を見せずに、行くぞ、と言って私に手を差し出す。
そんなギンがかっこよく見えるのは目の錯覚だろうか、それとも……
「はいはい」
そう言って私はギンの手を握った。
自分から差し出して来たくせに、私が手を握ると恥ずかしそうに顔を赤らめた。
「ギンがこんなところ選ぶなんて珍しいね」
「そ、そうか?」
公園の真ん中に噴水があって、あたりは木で囲まれている。
私好みの場所だ。
ギンが、覚えている事に私は感心した。
「あ…あのさ。しぃか」
「うん?」
「あー…そのさ…。えっとな?」
ギンがだいたい戸惑う時は、大事な事をいう時と照れ隠しをする時、困った時だけだ。
「し、しぃか!俺と結婚してくゔぇ!…噛んだ…」
ギンは、指輪を出しながら頭を下げたが舌を噛むと、眉を潜めて顔をそむけた。
本当に…。
雰囲気が無いんだから。
「…あーくそ…なんでだろうな…だいた…」
「お願いします」
「え?」
ギンの独り言を遮り私は答えた。
ギンは目を丸くして、固まった。
「雰囲気作るのも下手くそだし、口下手だし、無神経だし、嘘つけないし、ギンのダメな所いっぱいあるよ」
「…なんだこれ、俺とどめ刺されてるのか?」
「…でもね。でもね、私は、そんなギンがかっこいいし、優しいし……私、誰よりもギンの事が大好きだよ」
私の言葉にギンは、不機嫌そうな顔から一転恥ずかしそうな顔に変わった。
「お…おおお、俺だって、しぃかの事世界中の誰よりもあ、あ、ああ愛してるぞ!!」
顔を真っ赤にして、不器用な手つきで私との左手の薬指に指輪をはめる。
とても綺麗で、ギンが珍しく言ってくれた愛してるもこの指輪も世界一の宝物になりそう。
「…ねぇ。ギン?ギュウしても…良いかな?」
「っほっ!?公園だぞ!み、見られるぞ!」
きっと、今顔をあげたら私も顔を真っ赤にしてるのがバレてしまう。
それは、ちょっと悔しいからギンの言葉を無視して思いっきり抱きついた。
周りにはちょうど、誰もいないから大丈夫…のはず。
「お…お…し、しぃか」
「んふふー?なあに?」
嬉しすぎて笑いが抑えられなくなった。
「い、一生幸せにするから、どっかに行くなよ」
今度は、あまりためらわずに言えた。
その言葉が嬉しくて嬉しくて、今すぐにキスをしたい気分になったが、そこまでバカップルじゃあ、無い。
「ギンー。私たち結婚したら、私の苗字なくなっちゃうねー」
「べ、つにしぃかの方でも良いぞ?」
「んふふふふー。やだー。私は、明日からしぃか・テリーヌになっちゃうもーん」
《そうやって、私たちは結婚をし貴方…しぃが生まれました。
私も、パパも凄く凄く喜びました。
パパにいたっては、お母さんよりも可愛いなんて言うもんだから、ちょっとだけ貴方にヤキモチをやいてました。
でもね、そんな幸せな時間も長くは続きませんでした。
パパは、街で何かあったらしく誰かに殺されてしまいました。
貴方は、三歳の時だから覚えていないかもしれませんね。
そして、貴方もよく知っているでしょう。
貴方が十三歳の時、私が他の魔法を使える人の代わりに〈人間〉の元へ行くことになりました。
きっと、行ってしまったら帰っては来れないでしょう。
貴方には、私もパパもいなくなったらお義母さんしかいませんが、ちゃんと育って元気でいますよね。
さて、ここからは未来の貴方にです。
ここまでを読んでいて分かったかも知れませんが、貴方は純粋な魔法を使える人ではありません。
申し訳ありません。
私が一般人で、パパが魔法を使えた人だったんです。
貴方は、ハーフのような存在で魔法の力がとても弱いかもしれません。
肝心な所で役に立てなかったり、肝心な所で力を使い切り動けなくなるかも、しれません。
そこは、本当に申し訳なく思っています。
貴方が誰かと結婚をし、子供を産んでも魔法が使える可能性は、ほとんどゼロに近いです。
でも、私は思うんです。
言い訳に聞こえたらごめんなさい。
魔法は、この世の中にあってはいけないものだと思います。
力によっては、自然…世界の秩序を乱すことになるからです。
それは、何よりも大きな大罪。
そんな事はあってはならないのです。
だから、お願いします。
しぃ。
私のかわいい大事な娘。
貴方にしか、出来ないと思います。
魔法を使う人を消してほしいとか、そんな物騒なお願いじゃあありません。
貴方だけは、その大罪を犯さないでください。
貴方なら、それが出来ると思います。
それじゃあね。
お母さんはしぃには、二度と会えないけれど今までの人生凄く楽しかったし、充実してたよ。
私とパパの大事な娘へ。
幸せになって下さい。》
ビリビリビリ
手紙の破れる音が部屋に響く。
粉々に手紙を破くと地面にハラハラと落とし、足で踏み潰す。
まるで、ゴミを排除するかのように。
「ーーー残念だけど。あんたの伝えたい事は何にも届かないよ」
老婆は、ケラケラと楽しそうな笑い声を放つ。
「息子の悪口は、いくらでも書いて良いけれど、あの子には魔法を使える人の地位があがるかもしれない、凄いものを持ってるのさ。
あんたの伝えたいことは、あの子に知られたら困るのさ」
そうして、老婆は踏み潰されて汚くなった手紙に唾を吐きかけた。
そのあと、適当に土を被せると誰も待っていない家へと歩き出した。




