11
豪華な部屋。
辺りには一級品の家具ばかりが並んでいる。
俺は部屋の端にある大きな窓から腐った街を見下ろしていた。
後方からドアをノックする音が聞こえる。
「入っていい」
「失礼する」
入ってきた声で誰かよくわかった。
独特的な声で女の割りには低めの声。
きっと振り向けば長い黒髪と切れ長の美しい青色の瞳が俺を見ている事だろう。
俺は振り向かずそいつに話かけた。
「街の人口は?」
「問題ない。一分単位で人が約五人死んでいるが、三分単位で人が約二人生まれているからな」
そいつの言葉に答える事なくタバコに火をつけた。
煙を大きく吸い込み吐き出すとそいつは近づいてきた。
そして、俺の隣に並ぶと街を見下ろした。
「……本当に血なまぐさい…」
そいつの言葉に俺は笑いを堪えられなかった。
「何を言ってるんだ?それは、俺らが望んだ事だろう」
そいつもクスクスと可愛らしい笑い声を出した。
「そうだな。フォックス」
僕は腰に刀をくくりつけた。
ホルスターに銃を入れ、僕の準備は完璧だ。
ギコを見るとホルスターに銃を二丁いれ、剣を背中につけた。
準備を終えるとギコもこちらを見た。
家を出ると、しぃちゃんを迎えに行くために教会へ向かった。
確実に教会に居るかは正直言ってわからない。
でも彼らは教会を住処とし、教会を必要としている。
そのためには、教会に行くしかない。
教会につくと、今日が曇りだからか凄く暗い雰囲気に見える。
ギコが教会の扉を開けようとしたが、僕はギコの肩を掴んでそれを止め、教会の裏の芝生がある場所へ向かった。
そこに行くと予想通りウラーとニセとしぃちゃん、そしてタカラが居た。
しぃちゃんは、気を失っているのか寝ているのか、わからないがタカラが抱きかかえている。
三人は、こちらの様子に気づいていないためちょうどよかった。
「ん?それカメラか?」
「良い記事だよね。後で写真取るからさちょっとだけやられてね」
「おぇっ…」
ギコがあからさまに嫌そうな顔をした。
それを無視し彼らの前に姿を現した。
「おや。こんにちわ」
ニセがニコリと笑う。
僕もニコリと笑い返した。
タカラはその様子を見届けると草むらにしぃちゃんを連れて行き出てこなくなった。
「申し訳ないですね。ただ、貴方方が敵だから悪いんですよ?」
「あまりにも、普通に受け入れるから僕は君がアホなのかと思ったぐらいだよ」
お互いの間合いに入らないように距離を開けて話していた。
ニセとウラーが武器と思われるものを出した。
ニセは、二刀流。
ウラーは、片手剣。
ギコを見ると剣を持っていた。
「バトルスタート、ですね?」
ニセの皮肉のこもった口調を聞いた時、ウラーが動いた。
ウラーは、まっすぐ俺に向かって斬りつけてきた。
避ける事は出来たが、なかなかの手練れだろうと思った。
反撃と思い構えたが、モララーに言われた事を忠実にやろうと思い、ポッケから人間信仰者の印、カードを取り出した。
その隙を見てウラーが斬りかかってきたが、まともに受けたらこちらが動けなくなるのが分かっているため、避けたがあえて地面にへたり込んだ。
その時、シャッター音が鳴り響く。
モララーがカメラをこちらに向けて満面の笑みを浮かべている。
「物的証拠…だよね?」
ニセの方を挑発的に見つめた。
ウラーの顔が無表情から、焦ったような顔に変わった。
俺は急いで立ち上がると同時にウラーが俺の腹部に蹴りを入れた。
「…っ!」
倒れそうになったが、それこそ危ないため後ろによろめいた。
「お前には悪いが、そこまでされたら殺さざるをえない」
「そうかい。こちらも、お前らを殺したくてうずうずしてたんだよ!」
俺が斬りつけるとすんでの所で避け、俺の左腕に剣を掠めた。
「っ…いてぇじゃねぇか」
ウラーの耳元を斬りつけると、ウラーの左耳が飛んだ。
「ーーー!!」
耳を抑えたが、怒りのこもった視線を向けた。
「やはり、許さん!お前は、バラバラにしないとこちらの気が晴れそうにもない!」
初めて声を荒げた。
しかし、それこそが俺の狙いであり、俺は運が良いと改めて実感させられた。
「知っていたか?」
ウラーの無茶苦茶な剣さばきを受け止めて、俺は笑顔を浮かべた。
「何がだ!」
ウラーの剣は俺の左肩を掠めた。
「人は起こると冷静な判断が出来なくなるんだよ」
「何をーーーっ!!ゔぁっ!」
俺の言葉に少しだけ動揺したのか動きが鈍くなった瞬間を見て、俺はウラーの心臓目掛けて剣を深く突き刺した。
ウラーの血が俺の顔を赤く染めた。
細い目を大きく見開き、声にならない声を出していた。
右手の力は抜け、剣がコトリと音を立てて落ちると一緒にウラーは、絶命をした。
僕が写真を撮るとニセは、余裕そうな笑みを消した。
「…どうするつもりですか?」
「きっと、ニセさんの予想通り…だよ?」
僕の言葉の最中にニセさんは、右手に持っている剣を振り落とした。
刀で抑えたが左手をニセさんは、振るう。
それを避けると僕は、刀でニセさんの腹部を真横に斬りつけた。
しかし、ニセさんもなかなかやるのかうまい具合に避け、右手で刀を受け流した。
僕は余っている右手で銃を持ち早撃ちでニセさんの右腕の肘あたりを撃った。
動いてるわりには、ヒットした。
「っぐぅ…」
「ニセさん、右利きでしょ?」
それに答えず痛むはずの右腕を鈍いながらも使ってくる。
だが、流石に右腕は痛いのか今度は左腕の動きが中心的になった。
そのせいか、先ほどよりも手強さが無くなり一段と弱くなった気がする。
僕は右手でニセさんの左腕を掴み、右手でニセさんの右肩にツプリと刀を刺した。
「ぐがぁっ…!!」
「ちょ…ちょっと待って下さい!!彼女がどうなっても良いんですか!?」
タカラの声に僕とニセさんは、振り返った。
ちょうどギコとウラーさんの決着が着いた頃だった。
タカラは、意識を取り戻したしぃちゃんの首にナイフを近づけている。
しぃちゃんは、恐怖で少しだけ青ざめた顔をしている。
「……」
「早くニセさんを離しーー!」
僕はタカラが喋っている途中でタカラの顔をスレスレを狙って銃を撃った。
般若の面をしているため、表情の変化がわからない。
僕はギコに目配せをした。
軽くギコが頷くと走ってタカラの元へ行った。
タカラは、硬直しているので丁度良い。
「変な事するなよ」
「っっ!」
ギコがタカラの右腕を掴みナイフを奪い取った。
「な、にするんですか!?」
「女性に手をあげるのは人として最低だよ」
僕の言葉にギコがタカラを殴った。
タカラが倒れた拍子に般若の面が取れた。
「あ…あ、あ…」
タカラの体がガタガタと震え始め、しゃがみ込み頭を手で覆った。
「え、ちょ。どうした?」
「こなっ…来ないでくだっ!下さい!」
僕もギコもしぃちゃんも状況が掴めずニセさんの方を向いた。
ニセさんは、僕の目を見て答えた。
「タカラは、人が怖いんですよ。だから、怖いお面をすることで、人との接触をお面に挟んでやっていると思いたいんですよ」
しぃちゃんが、タカラの方に目をやった時僕は迷わずニセさんの首を跳ねた。
血しぶきが顔と体につく。
冷たくなったニセさんから手を離し持参してきたタオルで鮮血を吹き、刀を鞘にもどしてから三人の所に近づいた。
「しぃちゃん。大丈夫?」
「えっ…あっ」
僕の洋服の血を見て顔がより一層青くなった。
僕は洋服をバッと脱ぐとギコに投げつけた。
そして僕はもう一度しぃちゃんに手を差し伸べた。
今度は手を握ってくれた。
「いっ…」
「足でもひねってる?」
「みたい…。でも、大丈…きゃっ!」
しぃちゃんをお姫様ダッコすると小さく悲鳴をあげた。
先ほどまで血にまみれていたから、仕方の無い事だろう。
「ギコ。行こう?」
「……お前、イケメンだな」
「何わけのわからない事言ってんの?」
僕がさっさと、歩きだすとギコも慌ててついてきた。
空はだいぶ赤くなってきて、夕方になっていた。
「しぃ、顔赤くね?」
「ちょ!なにいっ!」
「夕日のせいじゃない?」
「そ、そうよ!夕日!そう、夕日よ!」
「ふぅーん」
久しぶりにのんびりとした生活を送る事が出来そうだ。
しぃちゃんとギコが言い合いしている時に何と無く思った。




