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神とクズ  作者: 葉月
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『遥か昔。この星には、神に近い〈人間〉が、住んでいた。我々も[人]だが、〈人間〉と[人]は、全く違う。〈人間〉は、様々な色の髪を頭部に生やし、足が手よりも長く、耳を横に生やし、全てが同じ顔の人間を二人たりとも、いなかった。

我々[人]は耳を頭部の上に向かって生やし、同じ種族は似たような顔をしている。

しかし、我々[人]も〈人間〉との共通点が幾つかある。

〈人間〉のように、二足歩行で歩き、〈人間〉のような、思想を持ち、〈人間〉のような、言葉を喋る。

我々のような[人]をかつては、獣と読んだ。

なぜなら、〈人間〉のような知能が、殆どなかったからだ。

しかし、〈人間〉が滅び始めてから、我々は、〈人間〉に近づいていった。

だが、〈人間〉には、なれず我々は、今だ[人]だ。

かつての神話に出ている登場人物は全て〈人間〉の形をしている。

〈人間〉は、神に誰よりも近い。

だから、我々[人]は、〈人間〉に逆らってはいけない。

数少ない〈人間〉を大事に扱い、上の地位にたたせ、全てを〈人間〉の手によって作ってもらおう。

[人]は、〈人間〉にもなれず、獣でもないのだ。

〈人間〉のために、全てを、国を、人生を、命を捧げようではないか!』

【人間信書】



「…くだらねぇ」



信書をパタリと勢いをつけて閉じると、俺は信書を目の前で、スヤスヤと気持ち良さそうに寝ているモララーの顔面めがけて投げつけた。

信書が、顔にあたる寸前で目を開けずっと見ていたかのように、信書を顔の目の前で受け止め、ニコリと、笑顔を浮かべて信書を俺に投げ返す。


「おはよう。ギコ、おかげで最悪の目覚めだよ」


「おはよう。本当にお前は、いつ寝てるんだ?」


「…さぁ?」


本当に、気に食わないやつだ。

腹の底で文句を言っていると、ドンドンとドアを叩く音が聞こえ始めた。


「あぁ。モナーさんかな」


モララーは、そう呟くとソファーの上に横になった。その様子からみるに、お出迎えをするつもりはないようだ。

だんだん音がでかくなったと思ったら、ノックの音がやみ、ドアを蹴りつけたような音がした。


「人がノックしてるのに、でてこねぇっつーのは、あれか?戦線布告かぁ?」


モナー族特有の温厚そうな笑顔は言葉遣いが悪く、スーツを着崩している上に、左の耳は半分まで千切れていて、モナー族には全く釣り合わない姿をしている。

耳をピクピクと、動かして不快感をあらわにする。


「やぁやぁ。こんにちは。人の家に来ておじゃまします、もない方こそ失礼だと思うよ」


「……おじゃまします」


モナーも素直だか、根性がねじ曲がってんのかいまいちよくわからないやつだな…。

それを口にだすと、また面倒くさい事になりそうだから、あえて口にはしないで黙っていた。


「というか、何しに来たの?」


「ん?あぁ、実はな…俺これから用事あるからよ、コレ買っといて。受け取りには下の奴送っとくからよ」


二つに折りたたんだ紙を一枚おくと、じゃあ、と言って壊れてドアノブが聞かないドアを押して出て行った。


「誰が直すと思ってんだろーな」


「使いの者送ってくるなら、その時に直してもらおーよ」


壊れたドアを押して、俺らは汚れきった外に出た。



しばらく歩いて、近所にあるスーパーで頼まれた物を買った。

頼まれた量が、無駄に多いから俺らの両手はビニール袋で塞がってしまった。


「やれやれ。モナーも人使い荒いよなぁ」


「そうだよねぇ。でも、報酬はきちんとくれるから良いお客さんだと思えば楽だよ」


今歩いている通りには、あちらこちらに少量の血が付着している。

その血をとろうと、アルバイトであろう若いギコ族のミケ種が必死に拭いている。なかなか熱そうなお湯を使い、油洗剤や、いろいろな洗剤を使って落とそうとしている。

このアルバイトは、落とすのが大変だし落としている最中に殺されたりする可能性があるので、なかなかの高級料らしい。


この国がこんなことになったのも、原因は〈人間〉だ。

〈人間〉どもは、人々の殺し合いをみて楽しんでいる。おかけで、今の警察の仕事は、全くと言っていいほどない。人殺しで捕まるのは、〈人間〉を殺した時だけで、[人]が死んでもただ処理をするだけになっている。

詐欺や万引き、そんな様な事件だけ警察が稼働する。



「ただいまーっとな」


「このドア本当に外れそうなんだけど」


俺はビニール袋を台所にがしゃんとおいてからドアに近寄ってみた。


「本当だな」


ドアを触るとグラグラしていて、今にも外れそうになっている。

モララーが、笑顔のままガタガタと揺するから余計壊れそうだ。


商品の入ったビニールを台所に放置し、一休みしようとリビングのソファーに腰をかけた時ドアがついに破壊された。

そのまま、誰かが部屋に入ってくる音がする。


「モララーさんよぉ。ドアが壊れたがどうしますかねぇ?」


「そうだねぇ。ギコ君。ここは、壊した本人に、死をもって償ってもらうべきだよねぇ」


「てめぇら。仙波組のもんかぁ?あぁ?」


白いワイシャツ姿の男が二〜三人来て、俺らの前に来て、手前にいる男がねちっこく話す。

後ろの方にいる一人の手には、モナーの下っ端であろう人が気絶しているのを捕らえられている。

目の前にいる、この中で一番偉いであろう人は、ワイシャツの袖をまくっていて腕からは刺繍らしきものがチラリと見える。


「…答える気は、ないってかぁ」


そう言うや否や男は、モララーに拳を振り落とした。


「!?」


「んー。君たちがドアを壊しちゃったおかげで、僕はお怒りだぞー」


モララーは、男の拳の受け止めて座ったまま腹部を蹴りつけた。男は小さく呻きその場に倒れた。モララーは、ヒョイっと軽々しくソファーから降りると男をうつ伏せにさせ、右腕を掴むと、左腕に近づけた。

ゴキゴキと、骨が折れていく音が聞こえる。


「あぎゃああぁぁぁぁあっあぁあ!!」


男の叫び声を合図に他の二人がモララーに飛びつく。

一人は素手、一人はナイフを持っていた。

俺はナイフを持っている方を殴り怯んだ瞬間に、ナイフを奪った。その奪ったナイフで、素手の奴の心臓を刺して絶命させた。多分即死出来たであろう。

俺が、尻餅をついて、恐らく腰を抜かしているであろう、一人に標的を定めた。


「すまっ…すまない。ころさ、殺さないでくれ。頼む!たのっー」


言葉を言い終える前に喉を引き裂き言葉をさえぎった。しばらくは、喉を抑えのたうちまわっていたが、やがて動かなくなった。

二人も殺したため、服には血液が幾つかついてしまった。


「ったく。モララーが動けよ」


「あはは。僕はこの人の骨を折ってる最中なんだけどっな!」


「あがあぁあぁあああぁぁぁ!」


モララーの手によって四肢の骨は完全とまでは、いかないが折れている状態になった。

先ほどまで、下品な笑みを浮かべていた男は歪んだモララーの性格によって、涙を浮かべだらしない姿になっていた。


「ーさてと。僕は君に聞きたいことがあるんだけど?いいよね?」


喋る余裕がないのか、それとも一般人に負けた屈辱感で喋りたくないのか、男は歯を食いしばりながら、頷いた。


「なんでここに来たの?」


「っ…それは…仙波組のもんが、ここの家に用があるみてぇだったから…お前らを人質か、なんかにすりゃあ…向こうの組長をいいように使えるかと…」


「ふぅーん。……浅はかだねぇ。あはははっ。ま、僕らに手を出したのが…っはは。まちがい…だったんだね」


モララーは、顔を手で抑えながら笑いを懸命に堪えている。


「くそっ…てめら…仙波組のもんか?」


「クスクス…僕ら?僕らは」


俺はモララーに目で合図され、男の後ろにナイフを構えて立った。


「仙波組おろか、ヤクザですらー」


「っ!!」


「ないんだよ」


モララーはゴロりと、落ちた首に向かって笑顔を浮かべた。




死体処理が、終わりリビングの血の掃除も終わったところでモナーの下っ端の頭をたたいて、起こした。

スーツをちゃんと着ること自体、モナーに全く似てないため、本当にあんな奴の下っ端なのかと、不安になるぐらい、まともな服装をしている。


「ん?あ…す!すいません!あれ?俺…」


目が覚めたと思ったら、ガバリッと起き上がって正座の体制になった。

頭の毛が少しだけたっている。

耳の先が少し黒ずんでいて、顔は俺と似たギコ族の顔をしている。


起きたばかりで、あまり状況が理解できていない下っ端に、軽く状況を説明すると、すいません、としっきりなしに謝ってくる。

このままじゃ、いつまでたっても終わらなさそうなため、報酬をもらい、適当に理由をつけてさっさと、帰した。ビニールを四つ分軽々しく持っている姿をみると、やっぱりヤクザだな、と改めて実感させられてしまう。


「あーぁ、せっかくの服よごれちまったよ」


「クリーニング屋さんに出さないとね」


「やれやれ、勿体無いなぁ…」


渋々と、俺は脱いで新しい服に着替えた。


「あ、ドアの修理忘れてた…まぁ、どうでもいいか」


「モナーさんが、払ってくれるさ」


モララーがテレビをつけると、そこにはこの

国の神に一番近い存在と崇められている〈人間〉。“フォックス”という、〈人間〉がパレードらしきものを開いている。

そこに参加する集団は、殆ど“人間信仰者”しかいない。


「……〈人間〉様。神様…ねぇ」


「…モララー?」


「くっくっくっく…神とクズ…くっ…」

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