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あなたと初めて会ったのは、桜の咲く頃だった――。


あの日から、私の世界は変わっていった。


毎日が楽しくて仕方ない、価値のある物になっていった。


それは、きっとこれからもずっと――。


 私は、いつもの様に校庭の隅にあるアスレチックで、桜を眺めているといきなり「パシャッ」という音が聞こえ、あたりが光った。

「驚かせてごめん」

 声がした方を向くと、そこに一人に男の子がいた。先輩だろうか?

「俺、2年の栗原駆流くりはらかける。写真部なんだ」

 そう言って彼は、カメラを軽く持ち上げた。


「新入生?」

「は、はい。1年の北川羽瑠きたがわはるです」

「北川さんね。よくここに来るの?」

「はい。ここ眺めが良いんです」

「うん、俺もそう思った」

 そう言って話す、先輩の横顔がとても綺麗だったのをよく覚えている。会話も鮮明に思い出せる。特に、「写真好き?」と、聞いてきた時の先輩の声と柔らかい表情が、とても印象的だった。


「写真を撮るとき、レンズ越しに見える世界が好きなんだ」

「先輩を見てると、とても伝わります」

「え?俺を見ると?」

「はい。先輩、とても楽しそうです。好きで仕方ない、そんな感じです」

 しばらく、何か呟いた後、先輩が

「北川さん」

 と、呼んだ。振り返った瞬間に、パシャッ。写真を取られた。そして、

「お、我ながらいい感じ」

 と、満足している先輩。さらに、

「ちょっと一緒に来て」

 そういって歩き出す先輩。何も考えずについて行った私。


 今思えば、結構迂闊だったと思う。でも、あの時、先輩に出会えてよかったと思っている。

 あの時先輩に会えたから、今ここに自分がいる。それは本当だから。


 先輩に連れられて来たのは、部室だった。

「あ、夕紀」

「カケル、もう帰ってきたの」

「客、連れてきた」

 そういって先輩は、私を手招きした。

「あら、新入生?」

「はい、北川羽瑠です」

「写真部2年の速水夕紀はやみゆきです」


「で、どこで捕まえて来たの」

「撮影場所で」

「へえ、カケルが1年生をねぇ…」

「なんだよ」


「珍しい事があるもんだな」


 急に入ってきた第三者の声に、驚いて振り向いた。すると、そこには先輩らしき人がいた。

「あ、奏お帰り。どうだった?時雨君は」

「なかなか良い腕してるよ、上達も早い」

「へぇ、時雨君はどうだった?」

「水城さんの教え方が分かりやすくて、楽しく出来ました」

「なら良かった」


 どうやら、この「ミズキソウ」と呼ばれている人が2年生で、「シグレ」と呼ばれているのが、1年生らしい。

「で、そっちの子は?」

「あぁ、北川羽瑠ちゃん、カケルが連れて来たの」

「こんにちは」

「あ、ハルちゃん。この人は水城奏弥みずきそうや、二年生ね。で、こっちは1年生の剣時雨つるぎしぐれ君」

「ども、水城です」

「・・・剣です」


 自己紹介をやってると、

「なんか、今日にぎやかだねえ」

「あ、部長」

「その呼び方やだ」

「いや、お前部長だろ、駄々っ子かよ」

「あ、聖先輩、カナ先輩も」

「えー!でもさ・・・」

「・・・うるさいよ、星南」

「・・・叶架君、大好き!なんか奢る」

「駅前のケーキ屋、シュバルツの期間限定5点セット」

「分かった、今日の帰りにでも行こう」

「・・・それ、2500円するやつじゃないですか!」

「カケル、それ言っちゃダメ」


 私は、呆気にとられて、呆然としていた。すると、そこに

「部長と呼ばれてるのが、3年の新井星南あらいせな先輩。聖先輩と呼ばれてるのが、同じく3年の爽木聖さわきひじり先輩。そして、カナ先輩と呼ばれてたのが、3年の神前叶架せんざきかなか先輩だ」

 解説してくれたのは、水城先輩だった。

「ありがとうございます」


「で、そこの女子。名前は?」

「北川羽瑠です」

「写真部にようこそ。で、なんか興味ある?」

「そこのカメラ、興味あります」

 そういって、指差したのは棚に並んだ沢山のカメラだった。部長はいくつかピックアップして、机に並べた。


「まず、この4つがフィルムカメラ。右から、モノクロ、ノーマル、望遠、耐水。ここまでいい?」

「はい」

「次に、この4つが一眼レフ。右から、フィルム、ノーマル、望遠、耐水。それで、これがデジタルカメラ。家庭用ってやつね」


「あの、一眼レフや、デジタルカメラには、モノクロって無いんですか?」

「あるよ。ここには無いけど」

「そうなんですか」


 部長の話を聞きながら、私がカメラに見入ってると、部長が、

「で、ハルちゃん。ここまで来ると、取りたくならない?」

 と、聞いてきた。.私は、カメラを触ってみたいと思ってたところだった。

「はい、すごく取ってみたいです」

「じゃあ、はい。これが、一番使いやすいから、これで何かとっておいで」

 そう言って、先輩は、私に棚からまた別のカメラを取り出して、渡してくれた。そしてあたりを見渡すと、

「おい、カケル。一緒に行ってこい。15分ぐらいしたら、帰ってこいよ」

「はい、わかりました」

「あの、よろしくお願いします」

「こちらこそ」

 そういって、先輩は笑いかけてくれた。


「この辺で、写真取ろうか」

「はい」

「自分が見て、撮りたいと思ったものをそのまま撮ればいいから」

「はい」

「じゃあ、10分したら戻ってきて」

「分かりました」


 私は、あたりを見渡して、気になるものを片っ端から撮った。空、木漏れ日、桜・・・ 人物も数え切れないほど撮った。

 不意に、視界に先輩が入った。私は、徐に先輩にカメラを向けた。

 パシャッ 

 先輩をみて、自然と撮りたくなった。何枚も何枚も。まるで、何かに取り付かれたように、シャッターを切った。真剣な眼差しで、写真を撮る先輩の姿を追って、撮った。何かに取り付かれたように写真を撮ったのは、後にも先にもこの時だけだった。


「そろそろ、帰ろうか」

「はい」

 先輩に声をかけられ、私はカメラを構えるのをやめた。もし、声を掛けられなければ、ずっと先輩を撮っていたかもしれない、と思いながら。


「お帰り、どうだった?」

「すごく楽しかったです」

「なら、よかった」

「メモリーを貸して、現像するから」

「あ、ありがとうございます、水城さん」


 次の日。写真部の部室に足を伸ばした。

「失礼します」

「あ、ハルちゃん」

「速水さん、こんにちは」

「夕紀でいいわ、ハルちゃん。それより、はい」

 渡されたのは、現像された写真だった。

「もう出来てたんですか」

「メモリーだからね、早いのよ」

 その後、しばらく夕紀さんと話してると、

「お、昨日の新一見っけ」

「あ、部長今日は早いですね」

「夕紀に言われると、秘書に言われている社長の気分だ」

「褒めてるんですか、貶してるんですか?それとも、皮肉ですか」

「すべて」

「なら、最高の褒め言葉をありがとうございます、と言っておきます」

「・・・いえ、どう致しまして」

 部長はなぜか歯切れ悪くなっていた。


「さて、ハルちゃん。写真見てみなよ」

「はい」

 私は、写真を封筒から出して机の上に並べた。

「全部で、20枚・・・結構撮ってるね」

「はい、意外と撮ってました」

「・・・しかも、殆どがカケルなんだけど、なぜ?」

「・・・なぜでしょう?」

「まさかカケルが好きなの?」

「・・・」

「なぜ、黙秘?」

「部長、黙って下さい」

 私は、思わずうつむいた。好きかどうかは、分からない。でもあの時、写真を撮る栗原さんに惹かれたのは確かだ。だから「いいえ」と言えなかった。いろんな憶測はあるけど、否定できることや言い訳もあるけど、どれも余計に雲行きが怪しくなるだけだ。はっきり言えることは、実際、写真があるとゆう事実だけだった。


「俺、これ良いと思うけどな」

 不意に、そんな声が聞こえた。

「どれ・・・うん、良いねそれ」

「俺も良いと思います」

 皆にそういわれた写真は、栗原さんが桜を撮っている姿を桜の木を背景にして撮ったものだ。

「で、本人はどうよ?これ」

「え・・・良いと思います」

 栗原さんは、戸惑いながらも「良い」言ってくれた。それだけで良いと思えた。


「ところで、ハルちゃん。写真部に入る気はある?」

 夕紀さんが尋ねてきた。返答は、即答だった。

「はい、これからよろしくお願いします」

 この日から、私の人生の中で、一番思い出に残る日々が始まった。



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