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エッセイ

お名前シールがはがれた日

掲載日:2026/02/26

 昨日、職場の電卓の裏に貼っていた名前のテプラがとうとうはがれました。


 もうずいぶんと前から表層の透明のフィルムと白地の粘着部分が剥離してしまっていて、はがれそう、はがれそうとは思っていたのですが、ついに、ポロリと。


 まだ結婚していないころ、今の夫となるひとからもらった電卓で、当時はなんて色気のないプレゼントだろうとも思ったけど、非常に実用性が高く、毎日の業務を支えてくれている相棒です。

 ほかの誰かの電卓とまぎれてしまっては大変と、すぐに職場のテプラを借りて、ラベルを作りました。最初は旧姓で。そのあと名前が変わっても、しばらくは旧姓のまま使っていました。そのまま産育休に入り、長めのお休みをいただいた後で復職したときも旧姓のままだったのですが、もうその職場に私の旧姓を知る人はほとんど残っていなかったので、すぐに新姓のラベルを作り直しました。家庭の事情でその職場を辞し、勤務環境が変わってからも、ずっとその電卓を使い続けていました。


 その、新姓のラベルが――今はもう、新姓というのもこそばゆいほど馴染んできた名字ですが――ぽろりとはがれました。きのう。


 ぐしゃぐしゃに丸まったラベルを手に取ったら、色んな記憶がいっぺんに押し寄せてきました。もらった当初のパッケージのブリスターをこじあけたときのこと。それまで使っていた電卓とキー配列が違っていて戸惑ったこと。いつの間にかノールックで数字を叩けるようになって、その押した感触が心地よくなってきたこと。復職後に年下の先輩から、志茂塚さん、電卓早いですねなんて言ってもらっちゃって、そんな、全然ですとしか返せなかったこと。


 その先輩は、こんなことも言ってくれました。ボーナス支給後の昼休み、私がネット通販のスマホ画面を見ながら「ペリドットかわいいなぁ、でもなぁ、贅沢だよなぁ」って悩んでいたら、「買っちゃえばいいじゃないですか」って、背中を押してくれたんです。「働いてるんですもん」って。まだ子どもたちが小さくて、なかなか自分のためのアクセサリーなんて買いにくい時期だったのですが、彼女のおかげで、そのペリドットのネックレスをポチることができました。


 はがれたラベルがもったいなくて、なんとなく捨てられませんでした。年度末の繁忙期なので、なかなか私物のお名前テープを作る余裕はなかろうと思うのですが、落ち着いてきたら、新しいラベルを作りたいです。次は何年もつでしょうか。ひょっとしたら、次にそのラベルが剥がれるとき、私は今の職場にいないかもしれません。でも、いま過ごしているこの時間を懐かしく思うのだろうなと、ふんわり考えています。そして、きっとこの電卓はそのときも元気に動いていてくれているだろうなとも思います。

心強い相棒に、感謝をこめて。

2026年2月26日

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― 新着の感想 ―
ラベルも道具も大切にする志茂塚様のお人柄に触れ、ほっこり心あたたまりました。 剥がれたラベル、どこかに挟んで取っておきたい気持ちですよね(´艸`*) 電卓の押し心地大事。指に負荷のかかる固さのとかある…
お名前シールというから、子供の持ち物かと思ったら……そっちだったとは! じんわり心が温められたエッセイでした。読んでよかった〜!
仕事で使うものって、毎日使うから愛着が湧きますよね。ノールックで電卓を叩くゆりさんを想像して、胸の中が温かくなりました。 旧姓のテープと新姓のテープ、両方が長い間にわたってゆりさんを支えてきたんだと、…
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