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第5話 信じたい気持ちと勘違い

 朝食を食べていた時、モニカはキッチンで侍女ミレイと仲睦まじく話す少女の存在が気になった。


「じゃあ、行くわね」

「かしこまりました」


 ミレイはその少女を見送った後、食後のデザートの準備を始めていく。


(あのお方は……)


 モニカの頭の中でベルトルトの言葉が蘇る。



『「白銀公爵」の第二夫人となることをお前に命じる』



(もしかして、あれが正妻の方? でも、旦那様は『唯一の妻』と言ってらしたし、どちらが本当なの?)


 先程の毒見の件といい、モニカは自分の目で見てどうにも彼が人殺しや女性を多く囲うようには見えなかった。


(でも、どうにも旦那様に嫌われている気がするのよね……)


 そう思ってオリヴェルに視線を送ると、彼はハッとして目を伏せた。

 わずかに手が震わせながら、スープを飲んでいる。


(旦那様は私が毒を盛った女と思っていらっしゃるのよね? ベルトルト様からも通達が言っていると思うし……この嫁ぎ先への斡旋は国王陛下の御意思も絡んでいると聞いたし、きっと旦那様も断れなかったのね……)


 モニカはパンを一つちぎって食べるが、うまく喉が通らない。


(この癖、治らないわね)


 彼女は幼い頃から緊張する場面や心に負担がかかった時、食べ物が喉を通らなくなる。

 そんな時でも舞台に立つためのエネルギーを補給するために無理矢理押し込んで食べていた。


 しかし、今はエネルギーを補給する意味もない。

 そっとスプーンを置こうとした時、オリヴェルが声をかける。


「食べられるだけでいい。無理はしないでほしい」

「え……?」

「環境の変化でまだ辛いだろう。多めに用意しただけだから、残してもいい」


 驚いて顔を上げたモニカを目が合うと、彼は再び瞬きの回数が増えて、最終的に目を逸らした。


(この感じ、照れているだけ……?)


 彼女はそう思うも、小さく頭を左右に振って自分の考えを否定する。


(いえ、まさかね)


 モニカはスープを飲み干すと、オリヴェルに尋ねる。


「申し訳ございません。では、お言葉に甘えてこちらのパンはもう少し後でいただきます」

「そうかい。なら、シェフにサンドイッチにさせよう。よかったらそれを昼食にしてほしい。私は今日は仕事で外出しなければならないんだ」

「ありがとうございます。それと、お仕事も気をつけて行ってらっしゃいませ」


 モニカの微笑みに彼の胸は打たれるもなんでもない風を装う。


「じゃあ、また夜会おう」

「かしこまりました」


 そうして初めての朝食は終わった。



 オリヴェルから好きに見回っていいと言われたモニカは、屋敷の中を探検していた。


「広いわね……」


 公爵邸ともなれば広く豪華なのは想像できたが、予想以上の大きさだった。

 モニカも元々伯爵令嬢だったのだが、両親を早くに亡くして食べていくために舞台女優として稼ぐことにしたのだ。

 そのため、王都のアパートの一室を借りて暮らしていた彼女にとってはあまりにも生活水準が異なり、まだ困惑の色が拭えない。


(ここが旦那様の部屋で、ここが……)


 そうして見て回っていると、オリヴェルの部屋から一人の少女が出てくるのが見えた。


「え……?」


 モニカの呟きに少女も気づいたのか振り向く。


 少女は綺麗な淡いピンク色のドレスを着ており、その品や佇まいは高貴な貴族のそれであった。

 そして、少女は今朝朝食の時にキッチンで見かけた彼女だと気づく。


「ごきげんよう」

「ご、ごきげんよう……」


(この方がやっぱり正妻なの……?)


 少女はふと笑みを浮かべるとゆっくりとモニカに近づいてきた。


「初めまして、モニカ様。いいえ、モニカお姉様と呼んでいいでしょうか?」

「え……?」


 モニカの反応を見ると、少女は彼女が自分を「正妻」だと勘違いしていると気づく。


「ご安心してくださいませ。私は『正妻』ではなく、オリヴェルの実の妹でございます」

「妹様……?」


 そう言うと、少女は敬意を表すように深くをお辞儀をしてモニカに告げる。


「リリィと申します。あなたが毒を盛ったことを私も、そして兄も冤罪だとわかっております」


 その言葉を聞いてモニカの心がすっと軽くなる。

 はっきりと「あなたを信じている」と言われてこんなにも嬉しいことはない。


「私がやったわけではないと、信じてくださるのですか?」

「はい、もちろんですわ。モニカ様がそんなことをなさるとは思っておりません」

「あ……」


 リリィの言葉によって堰き止められていた感情がぐわっと押し寄せる。

 婚約者に信じてもらえなかった。

 友達だと思っていた彼女に裏切られた。

 そんな辛く苦しい気持ちを誰かに吐き出せずにいた彼女の頬に涙が伝う。


「ありがとうございます……」

「ノルデン公爵家は全力であなたを守ります」



 そんな二人のやり取りを柱の陰にもたれかかって、オリヴェルは見守っていた。

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