第2話 白銀の女神と白銀公爵
冷たい牢屋の中でただ一人、モニカは壁にもたれかかって座っていた。
(寒い……)
今日は雪が降るほどの寒さ。
そんな真冬には厳しいほどの床の冷たさである。
(どうしてアイナが……)
モニカとアイナは幼少期からずっと一緒に演劇をして育った仲間だった。
しかし、その絆がついに今日壊れてしまったのだ。
(もう、私はアイナと一緒に舞台に立てないのかな……)
彼女がいたから辛い稽古や舞台も頑張れた。
両親を早くに亡くしていた彼女の支えはアイナただ一人だったのに、その彼女に裏切られてしまったのだ。
(アイナは私を嫌いになったのね……)
いや、最初から嫌われていたのかもしれない。
そんな風に思った時、重い牢屋の扉が開いた。
「ベルトルト様!」
「お前をただ牢屋に入れておいてもアイナの気が晴れないだろう。よって、『白銀公爵』の妻となることをお前に命じる」
「そんな……」
『白銀公爵』といえば豪雪地帯の領土にわずかな使用人と暮らして社交界には滅多に顔を出さないことで有名である。
彼は人殺しをした噂もありその素顔は冷酷無慈悲と言われていた。
「『白銀の女神』のお前にぴったりじゃないか! さあ、馬車に乗れ」
そうして無理矢理連れ出されたモニカは、ノルデン公爵邸行きの馬車へ乗り込んだ。
(寒くなってきた……)
王都とは比べ物にならない寒さで外は一面雪景色である。
すると、馬車が突然止まり、御者の手によって扉が開かれた。
「ここで降りてください」
「え……」
「馬車はこれ以上行けません。ノルデン公爵邸へはこの通りを真っ直ぐにいったところにありますので。それでは」
そうして御者はすぐさま馬車を走らせて戻っていってしまった。
(ここから歩いて行かなければならないの……? でもここにいては凍えて死んでしまうわ)
モニカはゆっくりとノルデン公爵邸を目指して歩き始めた。
二十分ほど歩いたところでうっすらと吹雪の中から大きな屋敷が姿を現した。
そして、門の前に立つと一人の執事が急いでモニカのところまで駆け寄ってくる。
「お待ちしておりました、モニカ様。ここまでようお越しくださいました。こちらへどうぞ」
寒さで話すこともできなくなっていた彼女は、こくりと頷いた。
屋敷の中はとても温かくモニカの体も温まっていく。
「ありがとうございます。えっと……執事のジーグルドと申します。じいとお呼びください」
「じい……様」
「様も結構ですよ」
そんな会話をしながら大きな部屋へと案内された。
そしてそこには旦那様がいた。
「旦那様、モニカ様がご到着なさいました」
「ああ」
そう言って振り返った彼は、見目麗しい白銀の髪に紫の瞳。
まさに『白銀公爵』そのものだった。
モニカは彼に少し怯えながら、彼に告げる。
「モニカ・オリアンでございます」
その言葉を聞いた彼は低い声で言う。
「オリヴェルだ。君には私の妻になってもらう」
「か、かしこまりました」
頭を下げた彼女に彼は言う。
「外は寒かっただろう。まずは温まるといい」
表情は変えず低い声で彼はそう言って部屋を去っていった。
(私この先やっていけるのかしら?)
そんな風に思ったモニカだった。
一方、自室に戻ったオリヴェルは扉を勢いよく閉めて大きく息を吐いた。
そして……。
(緊張した! 緊張した! 緊張した!! 何あの可愛い天使! いや、女神! ほんとに『白銀の女神』じゃないか!! 本当に俺の妻になったのか!?)
心の中で呟いた彼は、机から彼女のブロマイドを取り出した。
(ああ……どうしよう……!!)
彼は超がつくほどのモニカファンだったのだ──。




