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茉莉花パニック  作者: 耀羽 絵空


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第8章「世界境界の崩壊」

 四人の茉莉が手を繋いだ瞬間に起こった光の爆発は、単なる視覚的な現象ではなかった。莉花には、それが三つの世界の境界に対する根本的な変化を意味することが分かった。


 光が収まると、『影』の姿は消えていた。しかし、茉莉たちの表情を見ると、『影』が消滅したのではなく、統合されたのだということが理解できた。


「これで『影』の問題は解決しました」


 茉莉花が安堵の表情を見せた。


「でも、世界の境界の問題はまだ残ってます」


 確かに、周囲の空間の歪みは依然として激しく、三つの世界の光景が混沌として混じり合っている。建物が重なって見えたり、同じ場所に異なる季節の風景が現れたり、物理法則すら不安定になっている。


「あ、重力が…」


 愛先輩が慌てた声を上げた。彼女の体が浮き上がりそうになっている。莉花が慌てて支える。


「物理法則が破綻し始めてますね」


 茉莉花が深刻な表情で言った。


「このままでは、三つの世界すべてが崩壊してしまいます」


 実際、キャンパスの建物の一部が透明になったり、逆に異常に濃くなったりしている。学生たちは混乱した状態から回復しつつあったが、今度は現実そのものが不安定になっているため、パニックに陥っている。


「どうすれば境界を安定化できるんですか?」


 莉花が尋ねた。


「三つの世界を、正しい形で再統合する必要があります」


 茉莉花が答えた。


「ただし、それには大きなリスクが伴います」


「どんなリスク?」


「統合の過程で、私たち三人の個性が失われる可能性があります」


 茉莉Aと茉莉Bが顔を見合わせた。


「個性が失われる?」


「そうです。本来、私たちは一つの存在だったのを、無理に三つに分けたのですから」


 茉莉花の説明に、莉花は複雑な気持ちになった。確かに、三人の茉莉はそれぞれ魅力的な個性を持っている。それが失われてしまうのは惜しい。


「でも、統合しなければ世界が滅ぶんですよね?」


「はい」


「だったら、やるしかありません」


 茉莉Bが決然と言った。


「私の個性なんて、世界の安全に比べれば些細なことです」


「私もです」


 茉莉Aも頷いた。


「みんなの幸せのためなら、自分の個性くらい犠牲にします」


 しかし、茉莉花は首を振った。


「いえ、それは間違った考えです」


「え?」


「個性を犠牲にするのではなく、全ての個性を活かした統合を目指すべきです」


 茉莉花の言葉に、莉花は希望を感じた。


「それは可能なんですか?」


「理論的には可能です。でも、非常に困難で、完璧なタイミングとチームワークが必要です」


 その時、空間の歪みがさらに激しくなった。三つの世界が激しく衝突し、あちこちで小さな爆発のような現象が起こっている。


「時間がありません」


 愛先輩が叫んだ。


「決断しないと、手遅れになります」


 莉花は周りを見回した。混乱する学生たち、崩壊しつつある建物、不安定になる物理法則。確かに時間は残されていない。


「分かりました」


 莉花は決断した。


「統合を行いましょう。でも、個性を活かす方法で」


「莉花…」


 三人の茉莉が莉花を見つめた。


「あなたも危険な目に遭うことになります」


「構いません」


 莉花の声は力強かった。


「私は『つなぐ人』なんでしょう?だったら、最後まで責任を果たします」


 茉莉花が深く頷いた。


「分かりました。それでは、統合の儀式を始めましょう」


「儀式?」


「三つの世界を正しく統合するための、特別な手順があります」


 茉莉花が説明し始めた時、突然、空から巨大な歪みが現れた。それは今まで見た中で最大のもので、その向こうに三つの世界すべての光景が同時に見える。


「あれは…」


「三つの世界の集約点です」


 茉莉花が指差した。


「あそこで統合を行う必要があります」


 しかし、集約点は空中に浮かんでいて、普通の方法では到達できない。


「どうやってあそこまで?」


 愛先輩が困惑した。


「私の能力を使います」


 莉花が前に出た。


「世界をつなぐ力があるなら、きっと空間を移動することもできるはず」


「でも危険です」


 茉莉Aが心配した。


「失敗したら、空間の狭間に落ちてしまうかもしれません」


「やってみないと分からないです」


 莉花は既に決心を固めていた。


「みんな、私に任せてください」


 莉花は深呼吸して、自分の中にある特殊な力に意識を集中した。世界をつなぐ力、空間を移動する能力。確かに、体の奥に眠っているような感覚がある。


 そして次の瞬間、莉花の体が光に包まれた。その光は三人の茉莉にも波及し、五人全員が浮上し始めた。


「すごい…」


 愛先輩が感嘆した。


「本当に飛んでる」


 五人は空中の集約点に向かって上昇していく。下から見上げる学生たちも、この奇跡的な光景に見とれている。


 集約点に到達すると、そこは不思議な空間だった。三つの世界のエッセンスが渦巻いていて、美しいが同時に恐ろしくもある光景が広がっている。


「ここで統合の儀式を行います」


 茉莉花が説明した。


「私たち三人が手を繋いで、それぞれの世界のエッセンスを統合する。莉花は私たちをサポートして」


「分かりました」


 莉花は三人の茉莉を見守る位置についた。愛先輩も緊張した面持ちで見守っている。


 三人の茉莉が手を繋ぐと、集約点の中心に強い光が生まれた。その光は次第に大きくなり、三つの世界のエッセンスを飲み込んでいく。


 しかし、統合の過程は予想以上に困難だった。三つの世界のエネルギーが激しく衝突し、時には危険なほどの爆発を起こす。


「きつい…」


 茉莉Bが苦しそうに言った。


「エネルギーが強すぎます」


「頑張って」


 茉莉Aが励ました。


「みんなのために」


 茉莉花は無言で集中していたが、その額には汗が浮かんでいる。統合には想像以上のエネルギーが必要らしい。


 その時、莉花は自分にできることがあることに気づいた。『つなぐ人』としての力を、三人の茉莉に送ることができるのではないか。


「みんな、私の力を使って」


 莉花は三人の茉莉に向けて、自分のエネルギーを送り始めた。その瞬間、統合の過程が安定化し始めた。


 三つの世界のエッセンスが美しく調和し、新しい形の統一されたエネルギーに変化していく。それは破壊的な力ではなく、創造的で希望に満ちた力だった。


「できそうです」


 茉莉花が微笑んだ。


「莉花のサポートがあれば、個性を保ったまま統合できます」


 統合の光がさらに強くなり、ついに臨界点に達した。

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