表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
茉莉花パニック  作者: 耀羽 絵空


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/13

第4章「調査開始」

 翌朝、莉花は普段より遅い時間に目を覚ました。昨日の出来事がまるで夢のように感じられたが、体の奥に残る力の感覚が、全てが現実だったことを物語っていた。


 愛先輩はすでに起きていて、リビングでノートパソコンを開いていた。


「おはよう、莉花。昨夜、色々調べてみたよ」


「何か分かりましたか?」


 莉花は隣に座った。画面には茉莉花トニックに関する情報がまとめられている。


「SNSの投稿を時系列で整理してみたの。面白いことが分かった」


 愛先輩が画面を指差した。


「最初の投稿は三週間前。でも茉莉さんが作るのをやめたのは一週間前でしょ?なのに、この一週間の投稿数が急激に増えてる」


「ということは?」


「茉莉さんが作るのをやめた後に、別の誰かが大量生産を始めた可能性が高い」


 画面には投稿数のグラフが表示されている。確かに一週間前から投稿数が急激に増加していた。


「しかも、最近の投稿を見ると、効果が異常に強いのよ。初期の頃は『少し運が良くなった』程度だったのに、最近は『人生が激変した』レベル」


 莉花は眉をひそめた。


「茉莉さんが言ってた、ノートに勝手に追記されるレシピ。それがどんどん強力になってるってことですか?」


「たぶんね。そして問題は、それを作ってる人が誰なのか分からないこと」


 その時、莉花のスマートフォンが鳴った。茉莉からの電話だった。


「莉花さん、大変です!商店街の状況を見に行ったら、昨日よりもっとひどくなってて」


 茉莉の声は震えていた。


「どんな風に?」


「トニックを求める人たちが、店を片っ端から探し回ってるんです。それに、中には明らかに体調がおかしい人もいて」


「体調が?」


「異常に興奮してる人とか、逆に無気力になってる人とか。トニックの副作用だと思います」


 莉花は立ち上がった。


「分かりました。今から行きます」


 電話を切ると、愛先輩も準備を始めていた。


「私も行く。この目で確かめたい」


 二人は急いで商店街に向かった。昨日とは打って変わって、街は異様な雰囲気に包まれていた。


 あちこちで小さな騒動が起こっている。トニックを求めて店員に詰め寄る人、路上で意味不明な言葉を叫んでいる人、逆に道端に座り込んで無表情でいる人。


「これはひどい…」


 愛先輩が呟いた。


 莉花は辺りを見回した。すると、昨日見た空間の歪みが、今日はもっとはっきりと見えた。商店街の至る所に、小さな歪みが発生している。


「愛先輩、あそこの歪み、見えますか?」


 莉花が指差したが、愛先輩には見えないようだった。


「歪み?何も見えないけど」


 やはり、莉花にしか見えないらしい。歪みの向こうに、別の世界の光景がぼんやりと見える。どの歪みも、微妙に違う風景を映していた。


 その時、前方から茉莉が駆け寄ってきた。


「莉花さん、愛さん!大変なことになってます」


「どうしたんですか?」


「カフェの方で大騒動が起こってるんです。トニックの効果で恋愛が成就した人たちが、みんな同じ人を好きになってしまって」


 三人は急いでスポーツカフェ「アクティブ」に向かった。店の前には大勢の人だかりができている。


 中を覗くと、とんでもない状況になっていた。十数人の男女が、一人の男性を取り囲んでいる。その男性は困惑しきった表情で、なすすべもなく立ち尽くしている。


田中たなか君、私と付き合って!」 「いえ、私の方が先に告白したんです!」 「僕だって田中君が好きなんだ!」


 男女問わず、みんなが同じ人物に告白している。店長の田村さんは必死に止めようとしているが、収拾がつかない状態だった。


「あれが噂のトニック効果か…」


 愛先輩が呆れたように言った。


「でも変ですね。恋愛成就って、本来なら相手がいるはずなのに、なんでみんな同じ人を?」


 莉花の疑問に、茉莉が答えた。


「たぶん、効果が暴走してるんです。『恋愛成就』の願いが、『誰でもいいから恋人を』に変化して、たまたま目に入った人に向かってしまった」


「それって、もはや恋愛じゃないですよね」


「そうです。だから危険なんです」


 莉花は店に入ろうとしたが、群衆の勢いが激しすぎて近づけない。そこで、昨日覚醒した身体能力を使うことにした。


「みんな、落ち着いて!」


 莉花の声は、普通の人間の声量をはるかに超えていた。店内にいた全員が振り返る。


「あなたたちが求めてるのは、本当の恋愛じゃないでしょう?」


 莉花は群衆の中に入っていった。その存在感は圧倒的で、興奋していた人たちも次第に静まっていく。


「トニックの効果で、判断力が曇ってるんです。一度冷静になって考えてみてください」


 莉花の言葉には不思議な説得力があった。茉莉も愛先輩も、その迫力に驚いていた。


 しばらくすると、群衆は徐々に散っていった。しかし、完全に問題が解決したわけではない。店を出た人たちも、まだふらふらとした様子で街を徘徊している。


「莉花、今のは何?普通の人間の説得力じゃなかったよ」


 愛先輩が驚いた表情で言った。


「わからない…でも、体が勝手に」


 莉花も困惑していた。昨日から続く身体能力の向上に加えて、今度は精神的な影響力まで身についたようだった。


 店長の田村さんが近づいてきた。


「莉花ちゃん、助かったよ。でも一体何が起こってるんだ?街全体がおかしくなってる」


「それを調べてるところなんです」


 莉花は簡潔に状況を説明した。田村さんも納得した様子だった。


「それで、何か手がかりは見つかったのかい?」


「今のところ、トニックを大量生産してる人物がいることまでは分かってます」


 その時、茉莉のスマートフォンが鳴った。メッセージの通知だった。


「あ、美咲からです」


 茉莉がメッセージを確認すると、顔が青ざめた。


「どうしたんですか?」


「大学で、トニックの大量配布が行われてるって」


「大量配布?」


 莉花は驚いた。


「どういうことですか?」


「詳しくは分からないけど、キャンパスで誰かが無料でトニックを配ってるらしいです。学生たちがみんな飛びついてるって」


 三人は顔を見合わせた。事態は予想以上に深刻になっている。


「すぐに大学に行きましょう」


 莉花が決断した時、また新たな問題が発生した。


 商店街の向こうから、大きな爆発音が聞こえてきたのだ。三人は音のした方向に駆けつけた。


 現場は惨憺たる状況だった。小さな薬局の前で、何らかの爆発が起こったらしい。建物の一部が破損し、ガラスが散乱している。


「何が起こったんですか?」


 野次馬の一人に聞くと、驚くべき答えが返ってきた。


「トニックを自分で作ろうとした人がいたんだって。でも調合に失敗して、爆発したらしい」


「自分で作ろうと?」


「ああ、最近トニックが手に入りにくくなってるから、レシピを真似して作ろうとする人が増えてるんだ」


 莉花は愛先輩と茉莉を見た。状況はもはや個人レベルの問題ではなくなっている。


「これは…街全体の問題になってますね」


 茉莉が小さな声で言った。


「私が始めたことが、こんなことに」


「茉莉さん、自分を責めるのはやめてください」


 莉花は茉莉の肩を掴んだ。


「今は解決することが大事です。誰の責任かは後で考えればいい」


 その時、莉花の視界に新たな歪みが現れた。今度は爆発現場の真上に、大きな歪みが出現している。


「また歪みが…」


 莉花が見上げると、歪みの向こうに別の世界の光景が見えた。そこでも同じような爆発が起こっているようだった。しかし、その世界では爆発の規模がもっと大きく、建物全体が破壊されている。


「あの世界では、もっとひどいことになってる…」


 莉花が呟いた時、歪みの向こうから声が聞こえてきた。


「莉花、聞こえる?」


 昨日と同じ、自分によく似た声だった。


「茉莉花さん?」


「そう。状況は分かってる。あなたの世界でも暴走が始まったのね」


「暴走?」


「トニックの効果が制御できなくなってる。このままだと、物理法則まで破綻する可能性がある」


 莉花は震え上がった。物理法則の破綻など、想像もつかない事態だった。


「どうすればいいんですか?」


「まず、トニックの大量生産を止めなければならない。そして、ノートに追記されたレシピを無効化する必要がある」


「ノートのレシピを?」


「そう。でも一人では無理。私たちが協力しなければ」


 歪みの向こうの茉莉花の声は、どこか疲れ切ったような響きがあった。


「私たち?」


「私たち三人よ。茉莉、莉花、そして茉莉花。本来は一つだった存在が、三つに分かれてしまった」


 莉花は理解できずにいた。しかし、とにかく状況が深刻だということは分かった。


「今は何をすればいいですか?」


「大学でのトニック配布を止めて。そして、レシピノートを持っている茉莉を守って。ノートが悪用されると、事態はさらに悪化する」


 歪みが次第に小さくなっていく。茉莉花の声も遠くなっていった。


「頑張って、莉花。あなたの行動力が、きっと世界を救う」


 歪みが消失した後、莉花は呆然と立ち尽くしていた。


「莉花、どうしたの?また何か見えた?」


 愛先輩が心配そうに聞いた。


「はい…でも、今は説明してる時間がありません」


 莉花は決断した。


「大学に行きましょう。今すぐに」


 三人は爆発現場を離れ、大学に向かった。莉花の心の中で、使命感がふつふつと沸き上がっていた。


 茉莉花の言葉が正しければ、自分は単なる傍観者ではない。この問題を解決する鍵を握る存在の一人なのだ。


 しかし、彼女たちが大学に到着した時、そこで目にしたのは想像を絶する混乱だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ