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第8話 記録室の封印
翌朝、俺たちは夜勤の報告書に「異常なし」とだけ記入した。
あの影のことを正直に書けば、精神的に不安定だと疑われかねない。
だが、入館証だけはポケットに忍ばせたままだ。
プラスチックの表面には細かな傷と、消えかけた印字。
裏面の日付は、三年前――失踪事件の発生日と一致していた。
日勤の騒がしさの中、俺は中村とこっそり職員用エレベーターに乗った。
向かう先は地下の記録室。
そこには、過去の入居者や職員のデータが保管されているはずだ。
重い鉄扉の前に立つと、暗証番号式のロックが付いていた。
だが不思議なことに、その番号部分には白いテープが貼られ、
「使用禁止」とだけ赤字で書かれている。
「誰が…?」と中村が小声でつぶやいた。
そのとき、背後から冷たい風が吹き抜ける。
振り向くと、誰もいない廊下の奥で、書類のようなものがひらりと舞っていた。
拾い上げると、それは事故報告書の写しだった。
上部には太字で「水難死亡」と記されている。
そして、被害者の欄に――昨夜の入館証と同じ名前があった。