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第7話 消える影
影は俺たちとの距離を一気に詰めた。
非常灯の下、その顔が見えた――。
白く濁った瞳、口の端から垂れる水。
全身から滴る雫が床に落ち、じわじわと黒い染みを広げていく。
中村が悲鳴を上げ、俺の背中に隠れた。
斎藤は腰の無線機に手を伸ばすが、ザーッというノイズしか返らない。
「来るな!」
思わず叫ぶが、影は止まらない。
その瞬間――
非常灯が一斉に消えた。
暗闇の中、足音だけが俺たちの周囲をぐるぐると回る。
やがて足音は遠ざかり、静寂が戻る。
再び灯りが点いたとき、床の水の跡も、影の姿も消えていた。
ただ一つだけ残っていたのは――
床の中央に置かれた、古びた入館証。
名前の欄には、三年前に失踪した入居者の名が刻まれていた。