6/48
第6話 濡れた足音
非常灯の下、足音は確実にこちらへ近づいてくる。
ぴちゃ、ぴちゃ……と、水たまりを踏むような音。
だが廊下に水はない。床は乾いているはずなのに。
中村が怯えた顔で後ずさりし、俺の袖を強く掴んだ。
「おい……あれ、足……裸足だぞ」
視線を落とすと、角の向こうから伸びる二本の白い足。
血の気のない皮膚が非常灯に照らされ、滴る雫が床に落ちて消えていく。
その奥に――顔は見えない。
長い髪が前に垂れ、うつむいた影がゆらりと揺れた。
斎藤が低く呟く。
「三年前……この施設で夜勤中に失踪した入居者がいたんだ」
俺は息を呑む。ニュースにならなかったのか?
「警察も来たさ。だが遺体は見つからなかった。……それが今、消灯後に現れる」
足音が止まった。
次の瞬間、うつむいたままの影が――あり得ない速さで、こっちに駆け出してきた。