第5話 消灯後の影
放送が止まると同時に、館内は異様な静けさに包まれた。
鳴り続けていたナースコールも、電話の音も、まるで初めからなかったかのように消えている。
俺は震える手で懐中電灯を握り、廊下を見渡した。
薄暗い照明の中、壁に沿って長く伸びる“何か”が目に入る。
人の形にも見えるその影は、天井の非常灯の位置と関係なく、ゆっくりと動いていた。
「……あれ、見えるか?」
隣の中村に声をかけたが、彼は眉をひそめたまま首を横に振る。
「何もないよ。……本当に大丈夫?」
影はふっと曲がり角へと消えていった。
追いかけるべきではない――そう頭ではわかっていたが、足が勝手に動く。
角を曲がった瞬間、廊下の先に立っていたのは斎藤だった。
「……おまえも、見えるんだな」
低く掠れた声が響く。
俺は喉が乾ききって声が出せない。
斎藤は、まるで何かに怯えるように背後を見やり、早口で言った。
「消灯後の影は、死んだ者じゃない。……生きてるやつが化けたものだ」
次の瞬間、背後の廊下から、湿った足音が近づいてきた。
それは、人間の歩き方とは明らかに違う、不規則なリズムだった――。