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最終話 代償と選択
「……やめろ!」
中村が叫ぶと、半身の手は消え、鏡の中の自分も消えた。
中村は膝から崩れ落ち、頭を抱える。
「……もう、俺には、奈央の記憶も……」
「その記憶は、まだ消えていない」
先輩が静かに言うと、胸から懐中時計を取り出した。
「お前が失った記憶は、この懐中時計の中に保管されている。
俺が代償として失った『時間』も、この時計の中にある」
「……どうして……」
「俺は、お前たちを救うために、あの異空間の仕組みを調べた。そして、記憶を一時的に封印する方法を見つけ出したんだ」
先輩は中村に懐中時計を手渡した。
「この時計が満ちた時、全ての記憶は戻る。だが、そのためには……お前が払わぬ代償を、誰かが払う必要がある」 その言葉に、中村は目を見開く。
「……まさか、先輩が」
「……ああ。俺が、ここで全てを終わらせる」
先輩は微笑んだ。
その口元が、わずかに揺らぐ。
中村は懐中時計を強く握りしめ、言葉を失っていた。
それは、ひとりの男が、かつての自分の過ちを償うために、選んだ道だった。
外では、夜が明け始めていた。




