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第45話 鏡の奥の声
中村は先輩と合流し、再びあの廃ビルへと足を踏み入れた。
しかし、以前とは様子が違った。 壁に貼られた写真が歪み、天井から水滴ではなく、黒い砂が落ちてくる。
「……これは、異空間が現実を侵食し始めている証拠だ」 先輩の言葉に、中村は絶望を感じる。
廊下の突き当たり、以前は無かったはずの大きな鏡が立っていた。
鏡の中の自分は、左半身が完全に透明になっている。
そして、その口が動いた。
『……代償を払え』 声は中村の口からではなく、鏡の中から響いた。
「これが……俺の半身……」
「そうだ。そしてそいつが、お前の記憶を喰らい、現実を歪めている」
先輩は鏡に映ったもう一人の自分を、冷徹な目で見つめていた。
『助けたい者がいるなら、この代償を受け入れろ。そうしなければ、お前の全てを奪う』
鏡の中の半身が、手を伸ばす。
その手が、鏡を通り抜け、現実の中村の胸に触れた。
次の瞬間、中村の脳裏に、奈央との思い出が次々と流れ込んでくる。
しかし、その映像は黒い砂で覆われ、やがて何も見えなくなった。




