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第4話 見える者、見えない者
非常灯の赤い光に照らされた廊下を、俺は息を荒げながらナースステーションへ戻った。
全室のコールが鳴りっぱなしだ。
電話も鳴っている。だが受話器を取っても、ザーッという雑音しか聞こえない。
「何が起きてるの!?」
同じ夜勤の中村が青ざめた顔で駆け寄ってくる。
俺は息を整えながら言った。
「斎藤が……いた」
中村は一瞬、ぽかんとしたあと、眉をひそめた。
「誰? そんな名前の職員、うちにいないでしょ」
言葉が詰まった。
俺の記憶では、つい数か月前まで一緒に夜勤をしていた同僚だ。
でも……思い返すと、送別会もなければ、退職のあいさつもなかった。
ただ、ある日を境に姿を見なくなっただけだ。
そのとき、ステーションの奥の窓ガラスに映る影が動いた。
斎藤だ。俺の背後に、はっきりと立っている。
「……おい、中村。見えるか?」
中村は不安げに俺の背後を見やるが、首を振った。
「誰もいないけど……」
次の瞬間、館内放送が勝手に流れた。
「――消灯後の影に、近づくな」
その声は、紛れもなく斎藤のものだった。