第39話 最後の試練
森の霧がさらに濃くなり、肌を刺すような冷気が流れ込んできた。
中村と奈央が見守る中、先輩の前にも霧の渦が現れる。
やがて、その中から一人の女性が姿を現した。
長い黒髪、淡い水色のワンピース――。
その顔を見た瞬間、先輩は一歩後ずさった。
「……彩……」
その名を呟く声は、震えていた。
女性は微笑み、ゆっくりと近づく。
「あなた、まだ私を忘れられないのね」
「忘れられるわけ、ないだろ……あの日、俺が――」
先輩の言葉はそこで途切れた。
女性がそっと彼の手を握る。
「じゃあ、一緒に帰りましょう。もう、苦しまなくていいの」
奈央が小声で中村に囁く。
「……あれが、先輩の執着?」
中村は頷くが、何も言えない。
先輩は、手を握られたまま立ち尽くしていた。
その顔は苦しみと未練が入り混じっている。
「……俺は……」
先輩は拳を握りしめ、ゆっくりと顔を上げた。
「……もう行けない。お前は、ここにはいないんだ」
その瞬間、女性の表情が悲しげに歪み、そして霧と共に消えた。
重苦しい空気が一瞬、緩んだ。
だが次の瞬間、地面が震え、森全体がうなり声をあげる。
遠くの霧の向こうに、わずかに光が見えた。
「……出口だ!」
しかし、その光の前には、巨大な影が立ち塞がっていた。
森の“本当の番人”――最後の罠が、姿を現したのだった。




