表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/48

第36話 霧の中の影

 境界の森に足を踏み入れた瞬間、世界が静まり返った。

 風の音も、鳥の声も、何一つ聞こえない。

 ただ、足元から立ちのぼる白い霧が、ゆっくりと三人を包み込んでいく。


 「……妙だな。さっきまでの道が消えてる」

 奈央が振り返ると、そこにはただの霧の壁が広がっていた。


 「この森は、進むほどに“道”を喰うんだ」

 先輩の声も、どこか遠くから響いてくるように聞こえる。


 中村は胸の奥がざわつくのを感じた。足を前に出すたび、靴底が沈むような感覚がある。土ではなく、柔らかい何か――。

 視線を落とした瞬間、そこにあったのは泥ではなく、無数の古びた写真だった。


 「これ……全部、人の顔?」

 奈央が震える声で呟く。

 写真の中の顔は笑っていたり、泣いていたり、目を閉じていたり……どれも知らないはずなのに、不思議と懐かしさを感じさせた。


 ――その中に、一枚だけ、見覚えのある顔があった。

 中村は思わず足を止める。そこに写っていたのは、幼い頃に亡くなったはずの姉、理子だった。


 「……理子?」

 写真の中の姉が、ゆっくりと瞬きをした。


 「おかえり、中村」

 その声は霧の奥から直接響いてくるようで、中村の背筋に冷たいものが走った。


 「待て、中村!」

 先輩の制止が飛ぶが、気づけば中村は霧の奥へと足を踏み出していた。


 霧の中、理子が手を差し伸べている。

 触れれば、もう二度と戻れない――そんな確信があった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ