第31話 第三の道
沈黙の中、闇の世界の空気がじわじわと重くなっていく。
時間が押し寄せるように迫り、息が詰まりそうだ。
「……選べ」
仮面の声が低く響き、闇が揺らいだ。
中村は一歩前に出た。
その顔は覚悟を決めたように見えたが、瞳の奥には迷いが残っている。
「俺は――」
その時、足元の地面が淡く光り、別の声が割り込んだ。
『代償は命や記憶だけではない』
声の主は、闇の中から現れた銀色の羽を持つ影だった。
それは、この世界の“管理者”のような存在に見えた。
仮面が不快そうに顔を歪める。
『余計な口出しをするな、羽持ち……』
「第三の選択……?」私は思わずつぶやく。
羽の影は中村を見据え、言った。
『己の存在を二つに分け、一つをこの世界に残す。もう一つは現実へ戻す。代償は半身の喪失……それが永遠に埋まることはない』
「半身を……置いていく?」
意味がすぐには理解できなかった。
羽の影は淡々と続ける。
『この方法なら命も記憶も失わずに奈央を解放できる。ただし、お前は常に“欠けたまま”生きることになる』
欠けたまま――
それは、命を奪われるより残酷かもしれない。
自分の半分が、ずっとここでこの闇を見続けるのだ。
「……」
中村は黙って奈央を見た。
奈央は必死に首を振っている。
仮面が低く笑う。
『さあ、選べ。命か、記憶か、半身か――』
闇の中で、心臓の鼓動がやけに大きく響いていた。
決断の瞬間まで、もう時間はほとんど残されていなかった。




