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第3話 ナースコールの声
夜勤の静寂を破るように、突然ナースコールが鳴り響いた。
モニターに表示された部屋番号は――昨夜、斎藤が立っていたあの個室だ。
「……またか」
俺は深呼吸してから、廊下を歩く。
足音と、心臓の音が重なって響く。
扉を開けると、入居者の佐伯さんはベッドで静かに眠っていた。
コールボタンは、手の届かない棚の上に置かれている。
押せるはずがない。
そのとき、耳元で低い声がした。
「……見舞いだって言ったろ」
振り返ると、斎藤がそこに立っていた。
制服でも私服でもない、見覚えのない服。
濡れたように暗い色のコートから、ぽたぽたと何かが床に落ちている。
「お前……何を――」
言いかけた瞬間、廊下の灯りが一斉に消えた。
非常灯だけが赤く光り、斎藤の顔をぼんやりと浮かび上がらせる。
……目が、真っ黒だった。
次の瞬間、ナースコールが全室同時に鳴り出した。