第28話 崩落の核
歯車の刃と黒い面が、何度も衝突するたびに空間がひび割れたように歪む。
足元の床が音を立てて崩れ落ち、私たちは辛うじて踏みとどまっていた。
「……くっそ、こいつ、力が増してる!」
中村の額から汗が飛び散る。
それでも歯車の武器を振るう手は止まらない。
異形の仮面が、真っ二つに割れかけていた。
割れ目から覗くのは――人間の瞳。
その瞳が、確かに私たちを見つめている。
「……あの子を……返せ……」
声は震えていた。
怒りではなく、必死にすがるような響き。
「“あの子”って……」
私が問いかけた瞬間、中村が低く呟いた。
「……俺の妹だ」
雷鳴のような衝撃が全身を駆け抜けた。
耳鳴りの中、断片的な記憶が脳裏に押し寄せる。
* * *
夕暮れの港。
細い腕の少女が、何かを抱えて立っている。
中村の声が、必死にその名前を呼んでいた。
「奈央! それを置け! 危険だ!」
少女は首を横に振り、微笑む。
「お兄ちゃん……私、これを守るの」
そう言って、歯車のメダルを胸に抱きしめた。
そして――黒い影が彼女を包み込み、姿を消した。
* * *
現実に引き戻された瞬間、異形の動きが止まった。
「……奈央なのか?」
中村の声は、戦士ではなく兄のそれだった。
仮面の奥で、人間の瞳が一瞬だけ柔らかく揺れた。
だが次の瞬間、瞳は再び深い闇に沈み、異形は叫び声を上げる。
「核を……返せええええ!」
空間が完全に崩れ始める。
私たちは足場を失い、暗闇へと引きずり込まれていった――。




