第25話 反射する仮面
仮面の異形は無言のまま、ゆっくりと両腕を広げた。
その動きに合わせ、周囲の空気が重く沈む。
私たちの足元の光の道さえ、わずかに揺らめいた。
「行くぞ!」
中村が駆け出し、低く構えて懐に飛び込む。
瞬間――鈍い衝撃音と共に、中村の身体が弾き飛ばされた。
「……ッ!」
反射? 攻撃の力をそのまま返されたような感覚が、私にも伝わる。
「気をつけろ。こいつ、触れた衝撃を……全部跳ね返してくる」
中村が立ち上がり、唇を噛む。
その肩越しに仮面の異形はじっとこちらを見据え、わずかに首を傾けた。
試しに私は、距離を取って魔法の矢を放った。
矢は寸前で仮面の前に透明な膜のようなものを生み出し、同じ速度でこちらに返ってくる。
慌てて身をひねり、かろうじて避けた。
――攻撃できない。近接も遠距離も、全て跳ね返される。
「これじゃ、にっちもさっちも……」
私の声を遮るように、中村が低く笑った。
「……いや、パターンがある」
彼は目を細め、仮面の動きをじっと観察している。
「反射する直前、必ず右腕がわずかに下がる。その間だけ……“空白”がある」
言い終えるや否や、中村は再び走り出した。
仮面が右腕を動かす――その一瞬を狙い、欠けた歯車を突きつける。
金属が鳴る音と共に、仮面の表面に小さな亀裂が走った。
異形が初めて声を上げ、低く唸る。
「……やれる」
中村の目に、確信の光が宿っていた。