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第14話 ぴちゃり、ぴちゃり
音は階段からではなかった。
天井裏――水が滴るような音が、頭上から降ってくる。
“ぴちゃ…ぴちゃ…”
まるで天井の隙間から、見えない誰かがこちらを覗き込んでいるようだった。
中村が震える声で囁く。
「……まただ。あの日と同じ音だ」
私は懐中電灯を握り直し、天井の染みを照らした。
薄黒く広がった染みの中央から、透明な雫がぽたりと落ちる。
それは床に落ちた瞬間、じわりと赤くにじんだ。
血――。
「おい……あれ、下に落ちてくるぞ」
中村が後ずさる。
私は息を詰めて、階段の手すりを握った。逃げ道を確認しようとしたが――廊下の突き当たりは非常扉が鎖で固く閉じられている。
また一滴。
そして、次の瞬間。
“カサリ”
天井裏を、何かが這う音。
ゆっくりと、その影が階段の吹き抜けから覗き込む――。
見えたのは、長く濡れた黒髪と、赤く光る双眸。
その口元が、ゆっくりと笑みの形に歪んだ。
“ぴちゃり”