表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/48

第13話 屋上の水

 「……あの時は、冗談だと思ったんだよ」

 中村はメモを握りしめたまま、顔をしかめた。

 「元同僚の山崎がさ、やめる直前にこの紙を俺に渡してきたんだ。『もしお前があのビルに行くなら絶対に持ってけ』って」


 山崎――介護現場で一緒だった男。夜勤明けでも冗談を飛ばす明るい性格だったが、その時ばかりは、やけに真剣な目をしていた。


 回想の中で、中村は休憩室に座っている山崎の姿を思い出す。

 コーヒーの湯気の向こう、声を潜めて話す彼の言葉が甦る。


 「俺、あのビルで見たんだよ。屋上の貯水槽の水面に……女の顔が映ってた」

 「ふざけんなよ」

 「笑ってるんじゃない。あれは、生きた人間じゃない。目が、赤く光ってたんだ」


 山崎はそのあと、一度も夜勤のシフトに入らなかった。

 数週間後、彼は突然退職し、音信不通になった。


 ――あのビルは、十数年前、火事で数人が亡くなった事故現場だった。

 特に屋上の貯水槽は、消火活動の水が溜まり、事故後もしばらく放置されていたという。

 火事で逃げ遅れた女性職員が最後に目撃された場所も、その屋上だった。


 中村の話を聞きながら、背筋に冷たいものが走る。

 その時、上の階から“ぴちゃ…ぴちゃ…”という音が再び聞こえてきた。


 ……降りてくる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ