第10話 封鎖された天井
屋上の水音が頭から離れない。
帰宅後、俺は過去の新聞記事を探しまくった。
三年前――「介護施設職員、屋上で転落死」。
写真には、今のものよりも古い錠前と、まだ撤去されていない巨大な銀色の貯水槽が写っていた。
記事の中に、事故当日の証言があった。
「水が…真っ赤に見えた」
それが最後に目撃された姿だったという。
次の日、俺と中村は夜勤明けの時間を使い、屋上潜入の計画を立てた。
昼間は人目が多い。夜勤の仮眠時間を抜け出すしかない。
「でも、あの声…また聞こえたらどうする?」
中村が低く呟く。
俺は笑ってごまかそうとしたが、内心では冷や汗が止まらなかった。
その夜。
錠前を壊すための工具と懐中電灯を持ち、俺たちは階段を上り始めた。
だが、三段目を踏んだ瞬間、空気が変わる。
耳鳴りのような音がし、視界が揺れた。
懐中電灯の光が壁を照らすと――そこに濡れた足跡があった。
素足で歩いたような跡が、階段の上へ続いている。
しかもその足跡は、俺たちの目の前でじわりと“新しく”なっていく。
「……今、誰かいる」
中村が息を呑む。
俺は工具を握りしめ、足跡の先を睨みつけた。
扉の向こうから、またあの声がした。
「……おろして……」
同時に錠前がカチリと音を立てた。
誰も触っていないのに、鎖がゆっくりと外れていく――。