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ワンだ!FUL DAY’S (コメディー)

その日のおいらは、朝から大好きなお姉ちゃんに近所の公園まで散歩に連れていってもらってご機嫌だった。公園でお姉ちゃんは、久々にボール遊びをしてくれて、おいらはとても幸せな気分を満喫した。


 でも、散歩から戻ってお家に帰ってくると、とたんにおいらの幸せな気分は吹き飛んだのだ。


 さきほどまでの、おいらの幸せな気分をぶちこわした原因は、おいらの大嫌いなアイツが、お家の前でお姉ちゃんを待っていたからだ。


 アイツは、おいら達を見つけると、胡散臭い笑顔を浮かべて、お姉ちゃんに近寄ってきた。


 お姉ちゃんも、頬を緩ませて、ふだんおいらに見せた事のない表情をして楽しそうだ。


 あいつは、しばらくの間、おいらのことを無視してお姉ちゃんと会話していたが、おいらは早くお家に入りたかったので、お姉ちゃんに催促するように吠えた。


 すると、あいつは、あろうことかおいらにちょっかいをかけてきやがった。


「ほら、チビ犬」と言って、アイツは中腰になって、おいらの目の前に片手を突き出したのだ。


 全く持って無礼千万な奴だ。


 おいらには、ミュウと言う立派な名前があるにもかかわらず、チビ犬だと言いやがった。


 しかも、おいらにお手をしろと催促してやがる。

 そもそもアイツは半年前ほど前にはじめて姿を現した時から、初対面にかかわらず、おいらにお手をしろと強要する嫌な奴だ。


 おいらは、思いっきり吠えてやった。


 アイツは、スッと差し出していた手をひっこめると、おいらに向かって文句を吐いた。


「……ったく可愛くないチビ犬だなぁ」


 全く持ってして腹の立つ奴だ。


 おいらは、更に吠えまくってやった。


「こらぁ、ミュウ! 静かにしなさい」


 おいらの尋常ならぬ様子を見て、お姉ちゃんは、おいらの頭を軽く叩いた。


 ちくしょう、ちくしょう!


 アイツのせいで、お姉ちゃんに怒られてしまったじゃないか。


 アイツは、叩かれたおいらを見て、ざまぁみろーっていう表情をしていた。


 

 しかし、なんで、お姉ちゃんはアイツの味方をするのだろう?


 どうにもこうにも、おいらは納得がいかないのだ。


 アイツは、どう見ても悪い奴に決まっているのに……


 いつか、本性を見せて、お姉ちゃんを泣かせるに決まっているのだ。


 


 そのうち、アイツの化けの皮を剥がして、お姉ちゃんをアイツの魔の手から救わないといけないとおいらは思った。そんなことを考えていたら、首元が激しく引っ張られた。


「さぁ、ミュウ、家の中に入りなさい」


 お姉ちゃんは、おいらをお家の中にひっぱりこ込むと、首ひもを外して、お姉ちゃんの部屋に閉じ込めた。


「ミュウ、お姉ちゃん、ちょっと出かけてくるから、ここでおとなしくしときなさい」


 そう言って、お姉ちゃんは、無情にも部屋の扉をしめて、おいらに留守番を命じたのだった。




 くそ、いつも、アイツが現れると、おいらは留守番させられる。


 しかも、最近アイツが現れる頻度も多くなってるような気がする。


 早く、なんとかしないと、お姉ちゃんは、アイツに毒されてしまう気がして、気が気でないのだ。


 しかし、一体どうしたらいいものかと、考えていたら眠たくなってしまった。


 流石に、ボール遊びをしてもらったから、体が疲れてしまったようだった。


 そうして、おいらは、しばしの眠りにつくことにした。




 どれくらい、おいらは寝たのだろうか? 


 おいらは、ただならぬ気配と物音を感じて目が覚めた。


 部屋の中は、すっかり薄暗くなってしまっていて、昼とも夜ともわからない。


 おいらのうたた寝をさえぎった気配と物音を探すために、薄暗い部屋に目をこらした。


 目をこらした先には、おぞましい光景があった。


 なんと…… その光景とは、大好きなお姉ちゃんが、ベッドの上で裸にされて、アイツに襲われていたのだ! ついに大嫌いなアイツが本性を現したのだった。しかも、お姉ちゃんは、アイツに上から覆いかぶされていて、苦しそうな声を上げているではないか!


 こ、これは、お姉ちゃんの一大危機ではないのか!!


 しかも、アイツは、よく見ると、何度も何度も腰を動かしては、お姉ちゃんを攻撃している。


 そのたびに、お姉ちゃんは、死にそうな声をあげている。


 このままでは…… お姉ちゃんが殺られる。


 く、くそ、アイツめ…… 大好きなお姉ちゃんをいじめやがって……


 番犬としての意地を見せる時がきたのだ。


 おいらは、邪悪なアイツに決死の覚悟で突進した。


 そうして、アイツの汚い尻をロックオンすると、思いっきり牙をたてて噛み付いてやった。


「うぎゃぁぁ」


 アイツは、物凄い声をあげて、お姉ちゃんの体から離れた。


「キャァー」


 


 お姉ちゃんも、今まで聞いたことのない声をあげていた。


 アイツは、おいらの攻撃によって、ベットから転げおちて、のたうちまわっている。


 ついに、悪いアイツを退治してやった瞬間だった。


 おいらは、褒めてもらう為にお姉ちゃんの横にいき、尻尾を振った。


 お姉ちゃんは、おいらを見ると、怖い顔になった。


「ミュウ何てことするのよ!」


 おいらには、お姉ちゃんが、何で怒ってるのか、全くわからなかった。


 でも、すぐに、お姉ちゃんは優しい顔になっておいらに言った。


「ミュウは、お姉ちゃんが襲われてると思って助けてくれたのね! ありがとう」


 お姉ちゃんは、おいらの頭をなでて、抱きあげると鼻の頭にチュウをしてくれた。


  


 あの日以来、アイツは、おいらの前に姿を現さなくなった。


 お姉ちゃんも、以前のように、おいらをひとりぼっちにせずによく遊んでくれるようになった。


 また、お姉ちゃんを独り占めできるワンダフルな日々を取り戻せたのだ。


 しかし、ワンダフルな日々は長くは続かないようだ。


 近所の公園からお姉ちゃんと帰ってくると、お家の前で、見たこともない新たなアイツが手を振ってお姉ちゃんの帰りを待っていたのだ。


 でも、おいらは嬉しかった。


 きっと、こいつもまた、化けの皮が剥がれて、おいらに噛まれるに違いないと思ったからだ。

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