真の勇者 (ファンタジー)
パラメキア大陸にあるサム王国でのお話。
この国では、現在とんでも出来事が起こっていた。
それは、城からほどなく離れた村に魔物が現われたのだった。
村から逃げ帰った婦女子によると、その魔物はなんとも素晴らしい容姿をしていて、その美貌を用いて、村の男達をたぶらかし、虜になったところを、むしゃむしゃと食べてしまうとの事だった。
いささか、信じられない事ではあるが、旦那を寝取られた挙句に食べられてしまったご婦人達の悲痛な叫びからして真実と思っていいものである。それに、その村からは男は一切、城に逃げ帰ってこないことからも窺い知れるものであった。
国を治める王様は、頭を抱えて大臣を呼ぶ。
「おい、その魔物をなんとかする手段はないのか。このままでは、我が愛しき王女の婿になるかも知れない男達が全て食い殺されてしまうかも……。それに万が一にでも、魔物が城内に侵入したことを考えると夜も眠れないぞ」
「ご心配いりませぬ王様。
さきほどわが国の屈強な兵士達が魔物退治にはせ参じております」
とりあえず、王様は大臣のとった素早い行動に感服して結果を待つことにした。
しかし、いくら待っても兵士達の吉報は得られなかった。
そのうちにまた、城から直近の村から婦女子が城に助けを求めてきたのだ。
どうやら魔物は村一つと、城から送った兵士達も全て平らげたようだ。ましてや、それだけに飽き足らずに新たな村まで襲っている。
しかも、襲われてる村は城から目と鼻の先なのである。このままでは城に襲い掛かってくるのも時間の問題なのだ。
またしても、王様は頭を抱えて大臣を呼んだ。
「魔物の奴は、ますます勢いずいておるではないか、なんとかせぇ!」
「実は王様、こうなることもありえようかと、城内はもとより、他国にも魔物を倒せる者を募集しておりまする。しばしお待ちあれ。必ずや魔物を打ち倒す事の出来る勇者が現われましょうぞや」
大臣の鬼気迫る表情から王様は納得して勇者が現われるのを待つことにした。
それから三日後、大臣は浮かぬ顔をして、王様に拝謁した。大臣の隣には口ひげを生やした華奢な体をしたいかにも貧弱な青年がひれふしていた。
「大臣どうした? その横におる者は何者じゃ?」
大臣は一段と頭を低くして王様に申し訳なさそうに言った。
「この者は魔物を退治することが出来ると申してる者であります。隣国から来たと申しておりまして……」
王様は青年に頭を上げるように言うと、青年を値踏みした。なるほど、大臣が浮かない顔をするのも分かるとぐらい青年は貧弱に見える。
「その方、魔物を倒せると申したのは誠か」
王様に聞かれて、青年はかすれるような声を出して返事をした。
「はい、わたくしにお任せくださいませ。必ずや、魔物の首を持って帰って参ります」
王様は、魔物退治をこの者に任せていいかと思案したが、このような者でも魔物のエサになることによって少しでも時間稼ぎになるのではないかと考えた。日がたてば、もっと強そうな勇者が現われるかも知れないと思ったからだ。
「よくぞ、申した若者よ。そなたに魔物討伐を命じるぞ。大臣、若者に鎧と武器を用意してやれ」
そうして、城で準備を整えた青年は、魔物が潜んでる村に向った。
村に到着した青年は魔物を探し、村中を探しまわる。
ほどなくして、村で一番大きな家で明かりが灯ってるのを見つけた青年は剣を握りしめて家の中に入っていく。室内に入ると、物が腐ったような匂いが立ち込めている。
そして、青年は匂いの源である方に向かい室内を進む。すると、大きな扉が行く手をさえぎっていたので、青年は扉を蹴破って中に入った。
室内には、醜い姿をした魔物がお食事中である。
青年に食事を邪魔された魔物は怒り狂ったが、すぐに落ち着きを取り戻すと美しい女の姿に化けた。
魔物は腰を振りながら、手を招いて青年を呼びこもうとする。
青年は、魔物に誘われるかのように近づいていく。
「グフフ、そうだ、そうだ。坊やこっちにおいで」
魔物は、さらにウインクまでして青年を誘った。
それに釣られて、魔物にどんどん近づく青年。そして、青年はついに魔物の至近距離まで近づいた。
魔物はいよいよだと思い、両方の腕を変化させ爪を立てた。
その時である。室内に魔物の断末魔が響き渡った。なんと、青年は魔物の魔力にひきこまれずに、腰にさした剣を抜き、胸に刃を突き刺したからだ。
「なぜだ、なぜなんだ。私のチャームの魔法が効かぬ男など、この世に存在するはずがないのだ! もしや、貴様は女なのか」
青年は、魔物の質問に対して、不敵な笑みを浮かべると言った。
「残念ながら、俺は女じゃない正真正銘の男だ。ただ……女には全く興味のない“ゲイ”だけどな……」
「そ、そんなぁ……グハァ」
そうして、魔物は退治されたのだった。
青年は魔物の首を退治した証拠に切り取ると城に戻った。
玉座の前にひれふする青年に王様は褒め称えた。
「そなたこそ、真の勇者じゃ。褒美をつかわそうぞ。そうだ、褒美は我が愛するプリンセスと婚姻を結ぶってのはどうじゃ!」
青年は王様の申し分のない御褒美にただ、ただ下を向くしかなかった。
「どうした、王女が褒美では不服か?」
王様は心配して青年に聞いた。
「あの、王様。実はわたくしは……」
外では、勇者様、バンザイの声が響き渡っていた。