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シークレットプラン (SF)

 1968年7月。


 初夏の陽射しが眩しい、ロサンゼルスのハリウッドでは新作SF映画のオーデションが極秘裏に行われていた。



 オーデションと言っても映画のキャストを決めるものではなく、制作サイドの人選を選ぶものであった。


 つまるところの裏方の美術スタッフを決めるものである。


 オーデション会場である日の光が全くあたらない第8倉庫内では全米から手の器用さを売りにする職人達が映画制作の仕事にありつくために必死になって課題の模型制作にあたっていた。


 


 俳優を決めるのではないので、模型作りという独特な方法で選出されるわけである。


 この、模型の出来いかんによって特殊美術スタッフに選ばれるかがかかっているので参加者達は皆、額に汗をかき真剣な眼差しで作業に取り組んでいた。


 そんな、参加者達の様子をメガホンを取るキューブリックは値踏みをするかのように、参加者達の作品を鋭い視線で見つめていた。



 監督の隣にはおよそ映画関係者には見えない黒いスーツを着た男も監督と同じように参加者の作品に目を光らせていた。 


 


 ほどなくして、監督と黒いスーツの男は一人の青年の前で、意を決めたかのようにコクリと頷いた。


 そこには、見事なロケットの模型が監督達の前に勇姿を現していたからである。




 


 オーデションで選ばれた青年はマイクという名前で、ロスの工業科を卒業したばかりのものであった。




「いいか、マイク。来月から映画のクランクインに入る。しっかり我々の求めるセットを完成してくれ――知ってると思うが新作映画なので、何を作ってるか他言は無用だぞ。漏れたりしたらライバルにパクられてしまうからな」


 そう言うと監督はマイクの肩を叩くと、一年間の契約書にサインさせた。


 


 マイクは映画のクランクインに入ると、寝食を忘れるほどに映画のセット作りに没頭した。


 セットは大掛かりなもので、ようやく完成した頃には、契約書にサインした通り一年近くの月日が経過していた。


「流石、マイクだ! 完璧に我々の望んでいたセットを作ってくれたな。ご苦労」


 


 監督はそう言ってマイクの労をねぎらった。


「あの、監督。僕が作ったセットの映画はいつ公開されるのですか?」




「あぁ、君も早く自分の作ったセットがどのように使われるか見たいのだな。うまくいけば来月には公開のはずだ」



「え、そんなにも早く公開されるのですか、うわぁ楽しみだな」


 マイクは若者らしく無邪気にはしゃいだ。



「そうだマイク。これから家でパーティーするのだけど、君も参加しないか」



「光栄です監督。もちろん行かせてもらいますよ」



「それじゃ、決まりだ。外にキャデラックが止まってるので、先に行っといてくれ」


 監督はそう言うとマイクを送り出した。


 監督に褒められた上に、自宅まで招待されたマイクは嬉しさのあまり、自然とスキップをして監督の車に向った。


 監督の車の前まで来た時、突然、後部ドアが勢いよく開き、中から見覚えのない屈強な男達がマイクの前に立ちふさがった。


 素早く男達はマイクを取り囲むと、羽交い絞めにしてマイクの口に布を押し当てた。


 すると、マイクの意識は朦朧としてその場で倒れ込んでしまった。




 気がつくとマイクは、四角い窓もないコンクリートに囲まれた部屋で椅子に縛りつけられていた。


 


 正面には大型のモニターだけが眼前に広がっている。


 マイクは自身の身の上に起こったことが理解不明なので、唯一動ける首だけを前後左右に動かした。


 

 すると突然にモニターの電源が入り、画面には監督の姿が映りだされた。




「やぁ、マイク。びっくりしただろう! ようやく、君が作ってくれたセットのおかげで映画が完成したので死に土産に見て貰おうと思ってね」


「死に土産って……」


「君には、大変申し訳ないのだけど、国家の威信がかかっているものだから……。いや、君の功績は決して無駄にはしないよ。では、マイクご覧あれ」


 


 そして、モニターからは映像が流れ出した。


 そこには、マイクが丹念に作り上げた月面の世界が広がっていた。


 


 映像のテロップには、人類初、月面着陸の文字が躍っていた。


 


 1969年7月の出来事だった。

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