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フェィク (ブラックコメディー)

 銀座の高級クラブで、男は酒を飲んでいた。


 ここ、二ヵ月の間、男は土日以外、毎日のように来店するので、店の従業員で男の事を知らない者はいなかった。


 

 ただ男の職業は謎だった。


 男は高級スーツ、高級腕時計に身をつつみ来店すれば、必ず豪快に金を使う。

 店では評判の男だった。




 男は最近、入れ込んでいるホステスに、話しかけた。



「ちょっと、知りたいんだけどね、向かいの席に座ってる紳士、誰だか知ってるかい? 顔は覚えてるんだけどね、でてこないんだよ。話しかけたいんだけどね、ほら 名前わからないと失礼だろ」

 


 ホステスは、向かいの席の紳士の顔を少しみてから、男に言った。



「木村様ですよ、き・む・ら」


 

 とホステスは意地悪ぽく言う。



「そうだった。木村さんだったね。たしかぁ不動産屋だったかな」



「違いますよ、都内で手広くパチンコ経営なさってる方ですよ」


 


 そう、ホステスから聞いて男はニヤッとした。


 

 男は店のボーイを呼んだ。



「すまないがね、向かいの紳士に一番高いシャンパンを持っていってくれないかい」



「かしこまりました」とボーイが行こうとしたところ、ボーイの腕を軽くつかんで、


「必ず、私からだと言うんだよ」と言って、ボーイのポケットに一万円札をつっこんだ。



「かしこまりました」


 


 ボーイは嬉しそうに戻っていった。




 しばらくすると、さきほどの向かいの紳士、木村がお礼のあいさつに男のところにきた。



「どうも、高い酒を頂いたみたいで」



「いえいえ、お気になさらないでください」



「ところで、どこかでお会いしましたか?」


 と木村は男に聞いた。



「実は以前、私には無二の友ともいえる友人がいたのですが、先日、病気で亡くなった次第でして、その友人に木村様が似ていたものだったので、失礼だとは思ったのですが、お酒をお持ちした訳なのです」



「そうだったですかぁ。いやいや、これは全く稀有な方だ」


 


 木村は男が奢ってくれた訳がわかって、安心したのか大笑いした。



「これも、何かの縁ですよ、今日は大いに楽しみましょう」


 

 男はそういって、ボーイにどんどん酒をもってこさせた。


 

 酒がまわってすっかり上機嫌になった木村が男にいった。




「さきほどから、奢ってばかりじゃ申し訳ない。今度何か私にお礼をさせてくださいよ」


 


 それを聞いて、男はにやっとした。



「お礼なんて、とんでもないですよ。木村さんは、ほんと律儀な方だなぁ~。正直わたくし、お金とか物には、全く興味がないんですよ。お金なんて使いきれないくらいありますし、誰かに寄付したいくらいです」


 


 男は話を続けた。


「そうだ。木村さん、これ大きな声じゃ言えないですけどね」


 

 そう言って、男は本題を木村にきりだした。


 男の話によると、木村には親から譲り受けた莫大な資産があり、それを、元手に株式等に投資をしてさらに儲けているという。


 そして、木村にも自分に投資してみないかという事だった。


 木村は少し考えたが、男が絶対に損はさせないし、投資した金額を五倍にしてみせる。最初は一切お金はいらない、投資分のお金は男がたてかえる。

 木村が儲かってから、たてかえた分だけ返してくれたらイイという、なんとも、おいしい話だった。


 ただし、一つだけ条件があって、木村の持ってる資産を全部、男に見せてほしいといった。


 


 なんで、男が資産を見せて欲しいといったか? 木村は思ったが、男がただ単純に取引する相手の資産をみて、安心したいだけだと言ったので、見せるだけならタダだから、


 それぐらい問題ないと考えた。


 そうして、木村は男に、住所と電話番号を教えて、翌日木村の自宅で落ち合う運びとなった。


 ……無論、男は木村の住所とか素性は事前に下調べして知っているのだが――






 

 木村の自宅は田園調布にあり、凄い豪邸だった。


 男は木村の自宅の中に案内された。



「いやぁ~木村さん。素晴らしいお宅ですね」


 

 木村は照れ臭そうに、男にいった。



「そんなことないですよ~あなたの方がほんとに凄いくせに~」


 

 木村は思った。俺の隠し財産とか見たら、あの男きっと腰を抜かすだろうな。


 そうして、木村は男に貯金通帳、帳簿とか、隠しの金庫とか全てをさらけだした。


 

 男は、木村に言った。


「予想以上に凄い方だぁ~なかでも、度肝を抜かれたのは、地下室にあった金塊の山ですなぁ~」


 

 木村は褒めてもらって、満足気だった。


「それでは、近々いい報告ができますよ」


 

 そう言うと、男は木村の財産類を手早くカメラに写して自宅を後にした。






 それから、二週間後、木村の自宅に朝早くから大勢の男達がやってきた。


 男達の一人が玄関のチャイムを鳴らした。


「はい、どちら様でしょうか」とメイドが応対した。


「国税局の者ですが、捜査のため、自宅に入らせてもらいますよ」


 と言って、男達は木村の自宅に消えていった。








 そう、銀座でのあの男は国税局の敏腕マルサだったのだ。


 男はニュースで見ていた。


 そしてこう言った。



「銀座でいくら、使っても木村からしぼり取れる、追徴課税の支払いを考えたら安いものだな~」

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