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第8話 王妃とのお茶会

 翌日、パトリシアがラルフと一緒にお茶をしていると、ラルフの部屋のドアがノックされた。

 顔を出したのは、先日パトリシアの侍女になったアンだった。


「お部屋にいらっしゃらないので、もしやと思ったらやはりこちらでしたか」

「どうしたの?」


 アンは一通の手紙をパトリシアに渡す。


「王妃殿下からのお手紙です」


 それを聞いたパトリシアは手紙を開けて中を確認する。

 それから、ラルフに視線を移した。


「王妃殿下からお茶会のお誘い……。明後日だって……」


 ラルフは頷いた。


「そろそろ来るとは思っていたが、頼めるか?」

「うん、行ってくるよ」


 パトリシアはあまり気乗りがしなかったが頷いた。



 お茶会当日、パトリシアは薄ピンク色のドレスを着て、指定された庭園にアンと一緒に赴いた。

 すでに王妃のマーシャは来ていて、パトリシアを見つけて微笑んだ。

 茶髪をアップにして、紫色のドレスを着たマーシャは上品に手を振った。

 パトリシアはマーシャの前でお辞儀をした。


「お初にお目にかかります、王妃殿下。パトリシア・マイルズと申します。お茶にお呼びいただけて光栄です」

「ラルフの婚約者がこんなに可愛らしい方だなんて嬉しいわ。さぁ、座ってちょうだい」


 パトリシアは一礼してから席に着いた。

 侍女がお茶を入れてくれたので一口飲んだ。

 マーシャは嬉しそうな顔でパトリシアに言った。


「あの子、なかなか婚約者を定めないから心配していたのよ。でも、それも余計なおせっかいだったようね。これで一安心だわ」


 パトリシアは頭を下げた。


「誠心誠意仕えさせていただきます」


 マーシャは上品に笑った。


「そんなに固くならないで。ラルフと結婚したらわたくしはあなたの義理の母になるのだからもっと気を楽にしてちょうだい」


 ――ラルフから聞いていた通り、穏やかでお優しい方。だけど、どこか私とも似ている気がする……。


 パトリシアはにっこりと笑った。


「王妃殿下、お心遣いに感謝いたします」


 マーシャは心配そうな顔をして尋ねた。


「あの子はどこか感情を隠してしまうところがあるでしょう? でも、冷たい子ではないのよ。気長に接してやってね」


 ――感情を隠すところなんてあったかな? 結構分かりやすいと思うけど……。まぁでも、少し自分を大切にしないところはあるかな。


 パトリシアは小さく頷いた。


「ラルフ王太子殿下は幼い頃はどのような方だったのでしょうか?」


 マーシャは少し悩んでから答えた。


「そうねぇ、ラルフの母親が亡くなる前はあまり接することはなかったけれど、その後はわたくしの元で育ったのよ。母が亡くなって悲しいだろうに、あまり泣くことはなく、大人の顔色ばかり窺っていて、少し可哀そうだったわね。ジェイの世話もよくしてくれて。もっと甘やかしてやるべきだったのではないかと今では後悔しているのよ」

「仲がよろしいのですね」

「そうだといいわね。陛下の御子はみんなわたくしの子だと思って育てました。ラルフも、もう少しこの義母に甘えてくれたらいいのに。婚約者のこともなにも相談してくれないんだもの……」


 マーシャは少し寂しげに言った。

 それから、慌ててパトリシアに言う。


「ああ、別にパトリシアに不満があるわけではないのよ。むしろこんないいお嬢さんを見つけてきたラルフを褒めないといけないわね」

「そのように言っていただけて光栄です」


 ――うーん。王妃殿下もラルフのことを排そうとするような人には思えない。むしろお高く留まってなくて、話しやすいし、メレルズ公爵の娘なの納得。


 それから二人はしばらく歓談していた。



 お茶会を終えて、パトリシアはラルフの部屋に来た。

 パトリシアの帰りを待っていたラルフは、アンにお茶を用意させた後、下がらせて二人きりになった。


「義母上とのお茶会はどうだった?」

「すごーくいい人だった」


 ラルフはマーシャが褒められたのが嬉しかったのか顔を緩めた。


「そうだろう。義母上は素晴らしい人だ。側室の子だった俺を可愛がってくれた」

「聞いたよ。もっと甘えてほしいって言っていたよ。あと、婚約者のこととかも、もっと相談してほしかったって言っていた」


 それを聞いたラルフは少しバツが悪そうに言う。


「この年になって甘えられるか。それに義母上からは婚約者を早く決めるようにずっと言われていたし、紹介もされてきた。今回のことは相談したくてもできないだろう」


 パトリシアは小さく笑った。


「そうだね。でも、婚約者が決まったことをすごく喜んでいた。ちょっと良心が痛んだよ」


 ラルフも頷く。


「義母上を騙すような形になってしまった。義母上がパティを気に入ったのならなおさら申し訳ない。――なんなら本当にマイルズ侯爵の養女になって、俺と婚約するか?」


 パトリシアは笑った。


「ラルフもそういう冗談を言うんだね」


 ラルフは小さく溜息をついて頭を掻いた。


「パティはこの件が片付いたらどうするつもりなんだ?」


 パトリシアはお茶を一口飲んで言った。


「もともとエメリーを経由して、ヘミングスへ行こうと思っていた。海が見てみたいんだ」


 ラルフは頷いた。


「俺は何度かヘミングスに行ったことあるが、海は素晴らしかった」

「へぇ。楽しみだな」


 そう言って笑うパトリシアをラルフは穏やかな表情で見ていた。


「パティの笑っている顔を見ているとこっちまで楽しい気持ちになるな」


 パトリシアはじぃっとラルフの顔を見る。

 ラルフは気まずくなって少し視線を逸らす。


「なんだ?」

「いや、王妃殿下がラルフは感情を隠すところがあるって言っていたけど、そうでもないよなと思って」


 ラルフは小さく笑った。


「それはパティにつられているんだ。君は感情を隠さないでいてくれる。一緒にいて気が楽だ」

「そう? 私もラルフとは素の自分でいられる。結構、私たち相性がいいのかも」


 パトリシアはにっこりと笑って言った。

 ラルフはそれを見て、溜息を吐いた。


「そういうことを誰にでも言うのか? パティは」

「ええ? ラルフだって似たようなこと言ったじゃん!」


 分かっていないパティにラルフはもう一つ溜息を吐いた。

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