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第4話 助けた男性の正体

 パトリシアたちは襲われた場所から一番近いコンウェイの町に到着した。

 小さな宿屋に入り、パトリシアは受付で声を掛ける。


「部屋は空いている?」


 受付の女性はパトリシアとラルフを交互に見た。

 軽装の若い女性と、怪我をした男性の二人組なので怪しいのだろう。

 パトリシアはラルフの腕をぎゅっと掴んだ。


「私たち、夫婦で旅をしているんだけど、さっきそこでごろつきに襲われちゃって。旦那が怪我をしたから、早く手当てをしたいんだけど」


 その言葉にラルフが驚いた顔で何か言いかけたので、パトリシアはラルフの足を踏んでやった。

 ラルフは驚いて声を上げた。


「いった!」

「ほらぁ。旦那も傷が痛いって言っている」


 受付の女性は納得したのか、部屋を手配してくれた。



 部屋に入るなり、ラルフは困惑したように言った。


「一部屋でいいのか? 君は……」


 パトリシアは荷物を置きながらラルフを振り返る。


「夫婦なのに二部屋取ったらおかしいでしょう」

「その夫婦というのも……」

「男女の二人旅で一番怪しまれない設定でしょう」


 パトリシアは鞄から消毒液と包帯を取り出した。


「ほらほら。細かいことは気にしないで、怪我の治療をするよ」

「色々とすまない……」


 ラルフは床に座り、上半身の服を脱いだ。

 パトリシアはラルフの腕の怪我を見る。


「少し沁みるよ」


 消毒液をかけると、ラルフは僅かにうめき声を上げた。

 パトリシアは傷の周りの汚れを拭きながら言う。


「怪我はあまり深くないみたいだね。もう血も止まっている。よかった」


 最後に包帯を巻いて、治療を終えた。

 それから、パトリシアは鞄から小瓶を出した。


「ねぇ、黒髪ってグレース王国だと普通なの? あまり見かけないけど……」

「いや、あまりいないな」

「じゃあ、目立つから髪の色を染めていい? 茶色にしよう」


 ラルフが了承したので、パトリシアはラルフの髪を染めていく。


「石鹸で洗えば、落ちるから安心して」

「……なぜ、ここまでよくしてくれるんだ?」


 パトリシアは手を止めた。


「さっきも言ったじゃん。せっかく助けたのに死なれたら私の気分が悪い」

「……それだけか?」


 ラルフはパトリシアを見上げた。


「あとは、女の人に頼まれた。『あの方を助けて』って。あの方って、ラルフのことでしょう? 他の人は制服だったけど、君だけ違う服を着ていた。視察団の団長でしょう?」

「ケイトが……。彼女も死んだのか……。君が看取ってくれたのか?」


 俯いたラルフの頭をパトリシアはまた染めはじめる。


「あの人、ケイトっていうんだ。最期の願いを聞き届けてやることしかできなかった」

「俺についてきたばかりにこんなことになってしまった。最期にケイトの側にいてやってくれてありがとう」


 パトリシアは首を横に振った。



 ラルフの髪を染め上げたパトリシアは宿の女性に言って、湯浴み用のお湯をもらった。

 それでラルフの髪をすすぎ、タオルで乾かすと綺麗な茶髪に仕上がった。


「これで目くらましになるね。今日はこの宿に泊まって、明日発とう」


 ラルフは焦りを隠せない様子で言う。


「いや、早くエメリーに戻りたい」

「そうは言うけど、あのマントの人たちはラルフを狙っていたんじゃないの? 盗賊にしては手練れだったし。なにか心当たりはない?」


 ラルフはパトリシアから視線を逸らした。


「心当たりはありすぎて、見当がつかない」


 パトリシアは呆れた表情を浮かべる。


「若いのに敵多いの? 大変だね。なら、なおさら今は出ない方がいい。敵だってラルフが急いでエメリーに戻ることを見越している。まさかこんなところでゆっくりしているなんて思わないよ。明日にはもっと先を探しているはず」


 ラルフは感心したようにパトリシアを見た。


「パティの言う通りだな。俺が焦りすぎていた」

「じゃあ、決定ね」


 パトリシアはにっこりと微笑んだ。



 翌日からエメリーに向かって、四日後のことだった。

 パトリシアの作戦は成功し、ここまで追手には行き会っていない。

 このまま行けば明日にはエメリーに辿り着く。

 そんな時に、正面から荷馬車を引いた二十人くらいの一行とすれ違った。ラルフを護衛していた騎士たちと同じ制服を着ている。

 その中のひとりがラルフの知り合いだったようで、ラルフが声を掛けた。


「ポール!」


 ポールと呼ばれた茶髪の男性は二十代くらいで、一瞬怪訝そうな顔をしたが、ラルフをじっくりと眺めた後、目を大きく見開いた。


「ラルフ王太子殿下!」


 その言葉にパトリシアは驚いて、水色の瞳をラルフに向けた。


「王太子殿下?」


 ラルフはパトリシアの視線を受けて、少しバツが悪そうな表情をしたが、ポールに近寄っていく。

 ポールは茶色の瞳に涙を溜めて、ラルフの無事を確認している。


「生きていらっしゃいましたか。よかった……」

「パティが助けてくれたんだ」

「パティ?」


 ラルフはパトリシアの腕を取って引き寄せる。


「彼女が俺を暗殺者から助けてくれた」


 ポールはパトリシアを頭の先から足の先までじっくりと眺める。


「そうでしたか……。ラルフ王太子殿下を助けていただき、感謝いたします。我々はラルフ王太子殿下の一行が襲撃を受けたと連絡を受けて、スコット湖へ向かうところでした。行き違わなくてよかった。さぁ、エメリーへ戻りましょう」


 頷いたラルフを見て、パトリシアはそっと離れようとする。

 それをラルフはまた腕を掴んで引き留めた。


「どこへ行くんだ?」


 パトリシアは気まずそうに笑った。


「もう大丈夫そうだし、私はこの辺で失礼します」


 ラルフは眉間に皺を寄せて、パトリシアを見つめる。


「お礼がしたい。ここまでの旅費もあるし、一緒に来てくれないか?」

「一緒にどこへ?」

「王城に」


 パトリシアは首を横に激しく振った。


「いやいや、こんな格好で行ける場所じゃないですよ」

「気にしなくていい。俺を助けてくれたお礼をさせてくれ」


 ラルフに懇願するような瞳を向けられて、パトリシアは渋々頷いた。


 ――王太子というワードにいい記憶ないのに……。お礼を頂いたらさっさと退散しようっと……。


 パトリシアはラルフと一緒にエメリーの王城へと向かった。

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