エピローグ
カスティル王国のブラッドリー公爵邸では、公爵のジェームズが執務室で仕事をしていた。
ドアがノックされたので返事をすると、執事が入ってきて一通の手紙を差し出す。
「お嬢さまからのお手紙でございます」
ジェームズはひったくるようにその手紙を手に取った。
「やっとパトリシアから手紙が来たか!」
ジェームズはその手紙を開いた。
拝啓 お父さま、お母さま
木々が色づく季節となりましたが、お変わりなくお元気でしょうか?
私は、今はグレース王国にいて元気にやっています。
そして、いろいろとあって、それはもういろいろとあって、この度、グレース王国、新国王陛下のラルフ様と婚約する運びとなりました。
ラルフ様がお父さまとお母さまにご挨拶がしたいと言うので、一度、カスティル王国へ戻ります。
久しぶりに会えることを楽しみにしています。
かしこ
「な、なんだって⁉」
ジェームズは青い顔で立ち上がった。
執事は驚いて尋ねる。
「お嬢さまになにかございましたか?」
「あいつ、グレース王国、国王陛下と勝手に婚約しおった!」
そこへまた執務室をノックする音がする。
ジェームズはそれに怒鳴るように応えた。
「なんだ! 今は取り込み中だ!」
おそるおそる騎士がドアから顔を覗かせる。
「こちらも急ぎの用件でございます。お嬢さまが戻られました……」
その報告にジェームズは絶叫した。
「今! 手紙が届いたばかりだぞ!」
ジェームズは頭を掻きむしりながら玄関へと急ぐ。
玄関を出た先には馬車が一台止まっており、パトリシアが手を振って降りてきた。
「お父さま」
「お父さま、じゃない! さっき手紙が届いたばかりだぞ」
それを聞いたパトリシアは自分の手を掴んでいるラルフに言う。
「ほらぁ、やっぱり出発するのが早かったじゃん。ラルフってせっかちなところあるよね」
「すまない。気が急いてしまった」
ラルフは申し訳なさそうな顔をしてジェームズを見た。
それから、パトリシアはジェームズに視線を向けて、ラルフを紹介する。
「婚約者のラルフ国王陛下」
ラルフは頭を下げた。
「お初にお目にかかります。ラルフ・アルバート・クラークと申します。パトリシアお嬢さまとの婚約をお許しいただきたく、馳せ参じました」
ジェームズは声にならない叫び声を上げて、その場にひれ伏す。
「なんと恐れ多い! ジェームズ・ブラッドリーと申します。この度はこんな僻地にまでわざわざお越しいただき、恐悦至極に存じます」
ラルフは片足をついてジェームズの肩に手を置く。
「お義父上とお呼びしてもいいだろうか? 顔を上げてください」
「お父さまは相変わらず大げさだなぁ」
ジェームズは笑っているパトリシアをきっと睨む。
「お前が言うな! 段取りというものがあるだろう!」
パトリシアはずっと疑問に思っていたことをジェームズに尋ねた。
「そういえば、出発前の隣国の王太子との縁談って、もしかしてラルフのことだった?」
ジェームズは真っ青な顔で頭を抱える。
「そうだった……。陛下にグレース王国、王太子との婚約についてはお断りしたんだった……。なんと取り繕ったらいいんだ……」
アニーがジェームズの後ろから言う。
「あなたのバカ息子が婚約破棄してくれたおかげで、娘が旅に出て、グレース王国、国王陛下と婚約する運びになりました、でよろしいのではなくて?」
「そんなこと言えるか……」
ジェームズはぶつぶつと文句を言い続けている。
ラルフは困惑したようにジェームズに言う。
「そのような話があったとは知らなかった。滞在中にカスティル王国、国王陛下に謁見する予定があります。俺から事情を説明しましょう」
アニーはラルフにお辞儀をする。
「パトリシアの母、アニー・ブラッドリーと申します」
ラルフは一礼した。
そして、アニーはパトリシアに目を向ける。
「お帰りなさい、パトリシア」
「ただいま!」
パトリシアはラルフの腕を掴んで満面の笑みで言った。
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