3.私の名前は——
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チュンチュンと鳥の鳴く声が聞こえてくる。
薄く目を開けると、太陽の日差しが差し込んでくる。
そんな太陽の日差しを手で隠しながら、横になっていた状態から体を起こし座る。
「はあーあ、もう朝か」
大きくあくびを漏らす。
「おはようございます。ミリア様」
馬を撫でながらこちらに視線を送る女性の姿。
すっかりと元気になっている様子だ。
あのポーション効き目、大だな。馬も体に当たった火傷がすっかり治っている。
「おはようございます。もうケガは大丈夫ですか?」
「はい。私は大丈夫です。それよりミリア様、昨夜のことを詳しく教えていただけないでしょうか。不甲斐にも気絶してしまいあの後のことがわからないのです」
いや。あれは気絶どころじゃなかったけど? 死にかけてたけど?
まあ、いいか。とりあえず昨日のことを話そう。
俺は昨日のことを簡単に説明した。
◇
「なるほど……。では、あいつらはあの後逃げたんですね……」
「はい」
女性も最初は驚いた顔だった、でもそれが笑みに変わった瞬間、俺を両腕で抱きしめた。
「ミリア様、よくご無事で……。それと、また助けていただきありがとうございます」
女性の体は震えている。自分と背丈もさほど変わらないし、やっぱり中身は普通の女の子なのだろう。
ていうか、俺転生者だしこの人の名前も馴れ初めも知らないんだよな……。
どうしよ……。いっそ転生者だと言うか? いや、それだと面倒なことになりそうだな……。
よし! 記憶がないことにしよう! まあ、記憶がないのは間違ったことではない。そもそも俺はこの世界を知らないのだから!
「あの、その……。名前が思い出せなくて……」
「……え?」
おっと。やはり、不味かったか? でも、もう口にしたんだ言い逃れはできない!
「えっと……その……私、何も思い出せなくて……」
「なるほど、急な襲撃によるショックで記憶喪失になったのでしょうか……」
お? なんだか上手くいってる気がするぞ。
「大丈夫ですよ、ミリア様。いつかきっと記憶が戻ってくるはずです……」
女性はまたも俺を強く抱きしめた。そして、俺の顔を見ながら言った。
「私の名前は、ルビア・リグドロスです。ミリア様の専属メイドであり、騎士でございます」
彼女の名前はルビアというらしい。美しい名前だ。
そして、俺専属のメイドであり、騎士だと!?
つまり、これからの第二の人生でルビアは一生を共にするものということか!?
女性との関りがない俺にはちとドキドキな展開だぜ……。
「ミリア様。ご自身のことは覚えていますか?」
俺は首を横に振った。
「いえ。自分のこともわからないです……」
「大丈夫ですよ。そんな顔をしないでください」
暗い顔で地を見つめる俺にルビアが優しい言葉をかけてくれた。
「あなたの名前はミリア・バートル。バートル家の次女です」
ミリア・バートル。それが俺のこの世界での名前だ。
次女ということは姉もいるのだろう。
まあ、色々知りたいことはあるがとりあえず――。
「あの、なんで私たちは襲われたのでしょうか……?」
そう、なぜあんな殺す気満々の男たちに命を狙われているのかが知りたかった。
大方ただの盗賊に襲われたとかそういうものだと思っていたが、答えはまるで違った。
「ミリア様落ち着いて聞いてください……」
ルビアの顔が曇る。
「ミリア様の父、サバス様が昨夜の者たちに殺害されました……」
は? 父親が死んだ? ど、どういうことだ?
「え?」
「なぜ殺されたのか、原因はわかりませんが、娘であるあなたも命を狙われているのです」
原因がわからないのに殺された? 何を言っているんだ!?
もう訳がわからない。
「私はミリア様を守ることに必死で馬を走らせ逃げました」
そこからは俺も知っている、転生したばっかりのあの状況か……。
父親のことは全然知らないが、あいつら……本物の外道だ……。
俺は込み上げてくる怒りを押し殺し、そのままルビアの話を聞いた。
あれ? 姉は? それに母親もいるはず……。
「母や姉は、どこにいるのでしょう?」
「ご家族のことは、覚えているのですか? ミリア様……」
覚えている訳ではない。
「いえ、そういう訳では……」
「姉のレレア様、奥様のアリア様は、数週間前に離婚され、別の場所で暮らしています」
離婚……。ということは、姉は母についていき、俺は父親についていったということか……。
これからどうすればいいのだろう……。
自分らしく自由気ままに過ごすって思っていたけど、ミリア・バートルという少女がここまで、不幸だとは……。
俺は森の中の木々を見つめる。
「ミリア様、ここは危ないです。またいつ襲われるかわかりません」
「じゃあ、どこに行くのですか……?」
「……レレア様と奥様のいる屋敷に向かいましょう」
姉と母のいる家……。
離婚したとなると少し抵抗はある。
だが、ルビアの話を聞く限り、家には戻れなさそうだし……仕方ないか……。
「……わかりました」
ルビアは馬を撫で落ち着かせてから、俺が馬に乗るのを手伝ってくれた。
「大丈夫ですか? ミリア様」
「はい。ありがとうございます」
ルビアも俺の前で馬に跨ると、そのまま馬をゆっくり走らせる。
昨日は全然気にしてなかったけど、俺馬に乗るの初めてだったな。
「ミリア様、私はミリア様のメイド兼騎士なのですから、敬語は無用ですよ」
「あ、すみません」
おっと、また敬語を使ってしまった。
◇
馬に乗って、走りながらルビアに色々なことを教えてもらった。
まずは父親と母親の離婚した原因。
サバスは1つの村をまとめる人だったらしい。だけど人格者というかお人好しというか、誰にでも優しくしてしまうため、その優しさに漬け込む悪人によく騙されていたらしい。
そんなお人好しにうんざりした母のアリアは、離婚することを決め、姉はアリアにミリアはサバスに引き取られたらしい。
ルビアはミリア専属ということでサバスの元についたと言っていた。
この話を聞いてもサバスが殺される原因はわからなかった。なぜ、殺されたのだろうか。金か? それとも誰かの恨みを買ったとか? いやそれは無いか、お人好しとルビアも言っているし。
「ミリア様、もうすぐ着きますよ」
「あ、うん」
よし、次はタメ口で返事出来た!
馬は森を抜けると大きな壁が立つ場所へ向かっていた。
「ルビア、あそこに姉様と母様がいるの?」
「はい、あの街に奥様とレレア様は住んでいます」
大きな壁の目の前まで来ると、ルビアは馬から降り、1つの門の近くに立つ二人の騎士の男に近づいた。
何やら話をしているようだ。
よく聞こえないが……。
ルビアが話を終えると、門番の男たちが門を開けてくれた。それから、ルビアは俺を馬から降ろしてくれた。
「ミリア様ここからは、馬は使えないので歩いて行きましょう」
さっき男たちと話していたのは、このことだろう。
俺たちは馬を門番の男に預けると、そのまま門をくぐった。
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