2.TS転生②
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男がモヤに消えるとともに高々な笑い声が聞こえてくる。
「ハハハハハ、俺がどこにいるかわかんねえだろ?」
白いモヤに包まれていて、何も見えない。情報はこの男の声だけ。
女性が周りを気にしているが、何も見えていない様子。
そして白いモヤから突然男は現れた。
女性の背後だ。
そのまま、自分の持っている武器で女性の背中に刃を振るう。
「――っ!?」
女性も気づけなかった。
男の攻撃を背中に受ける。
「へへへ、お前の魔法でもこの何にも見えない状況だったら、避けられねえよなあ?」
違う、女性はそもそもこのモヤから外に出ればいいだけの話。
でもなぜかそれをしない。
理由は俺がこのモヤの中にいるからだろう。
女性の動きを制限しているのは、紛れもなく自分である。
自分がモヤから出れば攻撃の的が俺になることをわかっているのだ。
だから女性はモヤから抜け出せない。
男はモヤから現れては女性に切り傷を負わせ、また隠れる。
どんどん女性の身に纏っていた、鎧もボロボロになり、肌からの血も鮮明に見える。
「もうそろそろ終わりにすっか」
男は終了宣言と共にモヤから姿を現す。
最初と同様に長剣をクルクル回しながら、傷口を抑え辛うじて立っている女性の目の前へ。
首元へ刃を向ける。
「どうだ? 怖いか?」
「……はあ、……はあ」
荒い息遣い。
女性はもう喋る力もないようだ。
まずい、このままでは女性が死んでしまう……。
会ったのは初めてだが、こんなにボロボロになるまで俺を守ってくれた相手を見殺しにはできない。
でも、どうすれば……。
「じゃあ、死ね……」
男は剣を振り上げる。
「やめろおおおぉぉぉ!」
不意にも俺は声を出していた。
少女の怒りにも聞こえる声で。
男が振り上げた剣をそのままに、こちらを見る。
さっきと同様に男は不機嫌そうな表情だ。
「さっきもてめえは俺の邪魔しやがったよな?」
男の攻撃対象が俺へと向いた。
近寄ってくる男に俺は全身が震える。
「……ミリア……様……」
怖い。
今からこの男に殺されると思うと恐ろしく怖い。
「首だけでも持って帰れば金にはなるだろう、死ねよ生意気なガキ」
こいつは本当に俺を殺す気だ。
怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い。
男は長剣を横に振るった。
死んだ……二度目の人生即終了――。
そう思ったが痛みを感じない。
目を開けてみると体のどこも斬られていなかった。
それから男の方を見る。
――え?
頭が真っ白になった。
目の前では女性が俺を庇い斬られている。
「ははっ、この女どこまでこのガキ守んだよ」
女性は目の前で倒れる。
「……あ……ぁ……」
声が出ない。
目の前で大量の血を流す女性。
死んでしまう……俺のせいで……。
俺は女性の体を抱き寄せる。
「……ごめん……ごめん」
女性は目を閉じたまま動かない。
「このガキ守ったって結局一緒に死ぬのに馬鹿なやつだなあ、あーおもしれー」
男は笑っている。
何が面白い?
目の前で人が死んで、何が面白い?
俺の心は悲しみと、この男への怒りしか感じなかった。
「そんじゃあ、ガキ、お前もこいつと一緒にあの世に逝きな」
男はにやりと笑み、俺に長剣を向けた。
「……だまれ」
それはただ怒りに満ちた一言だった。
それと同時に男の足元から氷の柱が出現。
男の体に直撃した。
「――!? いってえな」
そのまま後方へ突き飛ばされる男。
「お前……その歳で魔法を使えるのか……?」
男の驚いた声。
だが、俺は気にしていない、今は一刻も早くこの男に裁きを与えたくて仕方がない。
「……だまれ」
次は空中に無数の氷柱が現れる。
俺が手を男に向けると、その氷柱は一斉に男に向かって飛んでいく。
無数に飛んでくる氷柱を男は剣で弾いていく。
「おいおい、さっきから全然俺の話聞かねえで攻撃してくんなよ」
「……だまれ」
再び氷の柱が出現。
「――!?」
男のバランスが崩れる。
そのタイミングを逃さず俺はもう一度氷柱を飛ばす。
氷が砕け散る音とともに男の周りが白色に染まっていく。
恐らく死んだ。
あんな攻撃をもろに食らって生きている人間なんてこの世界にもいないはずだ。
「……え?」
白色の砂埃が風に吹かれたが、男の姿がない。
どこだ? どこに隠れた?
俺は周りを見渡す。だが、男の姿はない。
「おい、ガキここだよ」
男の声!?
声のした方向をすぐに確認する。
は?
それは空中だった。
ローブを纏った男と共に長剣を持った男が空中に浮いている。
恐らく魔法。ローブの男が相当な手練れなのだろう。
「お前を逃すのは惜しいがここは引くことにするわ、じゃあな」
そう言うと男たちは馬で来た方向へ戻って行く。
……逃げられる。
女性を殺した相手に逃げられる……。
俺は男たちの向かう方向に手を向けると、氷柱を出し発射させる。
だが、届かない。魔法にも射程距離があるようだ。
「……くそ……!」
あ、そうだあの女性は!?
俺は女性の元へ屈みこむ。
「……ミリア……様」
女性の目が開いた。
よかった! まだ死んでなかった……!
でも、どうすれば……!
俺は周りに何かないか探す。
すると、倒れた馬の側に茶色いバックが落ちているのが見える。
そのバックを手に取り中身を確認すると、透明の瓶に水色の液体が入っているのが何本かあった。
これは、ポーションってやつか?
これがポーションならこの人も回復できるかもしれない。
俺は瓶の蓋を開けると少量、自分で飲んでみる。
すると、さっきの傷がみるみる治っていくのがわかった。
少量でこんなに回復できるんなら、女性の傷も治るかもしれない。
俺は瓶を女性の口元に近づける。
「飲んでください、お願い飲んで……」
女性の口に液を流し込むとそのままごくりと飲んでくれた。
「よかった……」
女性の目が薄っすら開く。
「……ミリア様……ご無事……ですか……?」
「はい、大丈夫です。さっきの人たちは逃げていきました」
「そう……ですか……申し訳ありません……お役に立てず……」
「そんなことないです! あなたが私を必死に守ってくれたから今の私がいるんです」
「嬉しい限りの……言葉です」
女性の目がまたもだんだん閉じてく。
まだ完治していないからな……。
「……おやすみなさい」
俺はそっと呟いた。
さて、俺も疲れたな。
急に魔法を使ってしまったし……ていうか、なんで俺、魔法使えたんだ?
あの時は怒りでどうにかなりそうだったから、気にしてなったけど。
普通は魔法なんてあんな簡単に出ないよな……。
それに詠唱なんて唱えていなかったし……。
まあ、そこんところはまたあとから考えればいいか。
とりあえず疲れたし、俺も今日は寝よう。
俺は気絶するように眠りについた。
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