1.TS転生①
自由気ままに書いていきます。
誤字脱字等がありましたら、報告していただけると助かります。
目を開けると目の前に女性の背中があった。
綺麗な黒髪が俺の顔に触れる。
女性が身に纏っているのは光沢のある鎧だ。
とりあえず、わからない。
なぜ目の前に女性がいるのか。
なぜこの女性は鎧を纏っているのか。
確かさっきまで俺、会社で残業をしていたはず……。
いつも通り定時で帰れなくて……。
あれ? そのあとのことが思い出せない。
眠ったのか? まさか睡眠不足でぶっ倒れたのか?
まずいこのままだと仕事が終わらず上司に怒られる!
なぜ真っ先に上司に怒られることを気にしているのか、というと――。
そう、まさに俺が通っている会社はブラックなのだ!
とりあえず自己紹介をしよう。
俺、才川慎吾はブラック会社に勤めて5年。
年齢は28歳、彼女は今までできたことはない。まあつまり童貞だ!
大学を卒業した後、普通に就職活動していたら、このブラック会社の社員となった。
最初は上司も優しく、仕事も楽しくできていた。まさにホワイトだったのだ。
しかし、社長が変わった途端一変。ホワイトだったのが、ブラックにオセロの様にひっくり返った。
それからは地獄のような日々の始まり、定時では帰れなく、仕事の量も倍以上になった。
辞めようとも思ったがこれからの転職活動の不安から結局辞められなかった。
そして今は目の前に女性の背中があるこの状況というわけだ。
待てよ? これってもしかして白馬に乗った王子様――いや、王女様が俺をブラック会社から連れ出してくれたのか!?
うん、そうに違いない。そうでなければ鎧を着た女性の背中がある現状を説明できない。
「ミリア様安心してください、貴方様は私が必ず守ってみせます」
女性の声である。
少しハスキーなかっこいい声だ。
ミリア様? 誰のことだろう? ていうかこの人今誰に話しかけてたの? 俺?
次々と疑問が浮かんでくる。
それにしてもさっきから揺れるな。
なんでこんなに揺れてるんだ?
そう思いふと下を向くと自分の足が地についていないことが分かった。
そこから前に視点を移すと、女性が長い黒髪を揺らし手綱持っているのが見えた。
高々と鳴る足音。
そうこれは、馬だ!
今、俺は馬に乗っている! しかも見たことのない女性と!
さらに情報が増え、俺の頭に混乱が生じた。
よし! まず現状を整理してみよう。
俺は今、知らない黒髪女性と共に馬に乗っている。
それから、ここは会社ではなく森の中。しかも夜。
で、この女性はおそらく俺のことをミリアと呼んだ。
こんなところだろうか。
まあ現状を整理したところで全くわからない!
なんだよ、もー。
あ。
俺は自分の気づきの遅さに情けない声が心の中で漏れた。
俺は馬鹿だ! こんなの自分で考えるんじゃなくて今、目の前にいる女性にちゃっちゃと聞いちゃえばいいんじゃん。
「あの、すみません」
――?
あれ? 何かおかしい。今喋ったの俺……だよな?
それは女の声だった。
しかも幼い女の子の声だ。
俺の声なのか……?
「……あ」
俺は恐る恐るもう一度声を出してみた。
間違えない。これは正真正銘、少女の声である。
は? なんで俺の声がこんなに高くなってんだよ。
まじで意味わかんねえよ。
「どうしました? ミリア様」
先程のハスキーボイス。
馬の手綱を握っている女性がこちらをちらりと見た。
「あ……あの、ここは……?」
「ここは、セリオ領の森林の中でございます」
セリオ領……?
森林というのは周りを見ればわかるが、セリオ領とはなんだ?
「ミリア様、危ないですのでしっかり私に掴まっていてください」
「あ、はい」
女性にそう言われ俺は彼女の腰に手を回す。
え。
俺は自分の手が小さくなっていることに気づいた。それはもう目で見れば男性の手ではないと即座に判断できる程に。
ど、どうなってるんだよ!?
それから自分の体、顔に触れると俺は理解した。
――自分が女になっていることに。
手は小さく、顔はツルツルお肌でもちもちだ。
髪も腰まで伸びているのがわかった。綺麗に輝く銀髪。
これって……ほんとに、もしかして。
――TS転生ってやつですかあああああぁぁぁぁぁぁぁ!?
驚いたぜ。まさか目が覚めると性別、年齢が変わって、しかも転生してるとは……。
――最高か? ここはまさか最高の世界なのかあああぁぁぁ!?
どうして俺がここまで喜んでいるかって? そりゃもちろん女の子になっているからじゃないぜ? 俺が喜んでいるのは……もうあのブラック会社に行かなくて済むからだ!
もちろん驚いているところもあるが、あそこで一生働いて生き地獄になるんだったら、TS転生の方がマシに決まっている。
よし! こっから俺の第二の人生のスタートだぜ! 自由気ままに自分らしく生きてやる!
俺はそう心に決めた。
「おい! 待て! その娘をよこせえええぇぇ!」
男の声。
それは俺の背後から聞こえてきた。
振り返るとそこには、二人の男が馬に乗り強面でこちらを見ている。
「くそっ! もうここまでっ」
馬の手綱を握る女性がそう言って、後ろを気にしている。
ん? これはまたどういう状況なんだ?
女性の発言からして今、俺たちはあの男二人に追われている。
で――なんで追われているんだろう?
また俺は頭をフル回転で回し始めた。
まあだからと言って、転生したてホヤホヤの俺に状況を理解することはできなかった。
「炎よ、今この時、闇夜を照らし、我が道に灯を……」
馬に乗る二人の男のうち一人が何やらごにょごにょと独り言を言い始めた。
あいつ、何言ってんだ?
その男は独り言を言い終わり、前に手を出しこちらに向けてきた。
その男の手のひらから、何やら赤色の光が出てきた。
赤い光はみるみる大きくなり、男の手と同等の大きさになると止まった。
そして男が一言。
「……死ね」
赤い光がこちらに向かい飛んできた。
待て待て、おいおいおいおい、嘘だろ……?
俺が赤色の光だと思っていたのは、炎だった。
そう、これは魔法だったのだ。
男の独り言は恐らく詠唱というやつだ。
男の魔法がこちらに飛んでくると、乗っている馬の体に当たった。
それと同時に馬が悲鳴を上げ、バランスが崩れる。
俺と黒髪の女性は地に投げられた。
「痛っ!」
「大丈夫ですか!? ミリア様!」
女性は自分の傷も気にせず俺に寄ってきた。
「……大丈夫」
「……しかし」
馬から落ちただけなので、かすり傷だったが、女性は心配そうにこちらを見ている。
だが、少女の体だからなのか、少しのかすり傷でも痛む。
「おい、おい、手間かけさせんじゃねえよ」
二人の男が追いつくと馬から降り、一人は持っていた刃の大きい長剣をクルクルと回し、近づいてくる。
もう一人はローブを纏い、後ろで杖のようなものを持って、近づいては来ない。
これもしかして、また死んじゃうパターン?
これからの俺の人生ウキウキハッピーライフが……。
「これ以上、ミリア様に近づくな!」
女性が声を上げた。
腰に収めてあった、長剣を取り出すと剣先を男に向けた。
「おっと、おっかねえな?」
男は両手を上にあげ、女性を嘲笑っている。
「だがよお、お前一人でそこの子供守れんのかあ?」
男は長剣の刃に舌を這わせる。
うえ、あれよくアニメで見る悪党キャラがやる仕草、第一位のやつじゃん!
初めてリアルでやってる人、見た……。
「私は、何があろうとミリア様は守る!」
女性は少し怯えているのか震えているのがわかる。
だがその目は俺を守るという強い意志を感じる。
「なんだお前震えてるじゃねえか? あっはっは」
男はそう言うと上半身を前に倒しながら走ってきた。
「まずはお前からだあああぁぁ! 死ねえええぇぇぇ!」
持っていた長剣を下から女性に向けて振り上げる。
女性もぎこちないが反応し、自分の持っている武器で弾いている。
「ほう、これに反応するか」
「ミリア様を守るのならこれくらいできて当然だ!」
次は女性の方から攻撃を仕掛ける。
長剣の剣先を高々と空に向けると、そこから急降下。
だが男も反応し弾き返す。
――互角。
いや、少し男の方が優勢に見える。
男と女性の攻防は数分、続いた。
どちらも激しい剣術だ。
しかし女性の体には次々と細かい切り傷が刻まれているのに対し、男の方はそれがない。
「どうした? それでそのガキ守れんのか?」
「うるさいっ!」
圧倒的ではないが、女性と男にはやはり実力の差があるようだ。
まずいな、これじゃあ女性の方が先に負けてしまう。
かと言って、この体の俺が何かできるわけでもないしな。
俺は見ていることしかできなかった。
無理に加勢しても足手纏いだとわかっている。
しかし! 女性が目の前で痛めつけられるのを易々、見てはいられない。
俺は立ち上がると、声を上げた。
「おい! もうやめろ!」
男がこちらを見る。
「あぁん?」
すごく機嫌の悪そうな表情だ。
「おい。今なんつった? お前ガキのくせに調子乗ってんじゃねえよ!」
男は腰に手をやると、そこから小型のナイフを取り出し、まっすぐ俺に向けて飛ばした。
そのナイフは俺の右腕に直撃。
「痛っ!」
俺は痛みに耐えきれず、地面に座り込む。
腕からは血がみるみる流れ出す。
「ミリア様!?」
女性は男の方を気にせず、俺の元へ駆け寄ってきた。
心配そうに見つめる女性。だが、その奥にはものすごい怒りを感じる。
「お前、ミリア様を……よくも……」
「なんだよ、そのガキがナメタ口利いてっからだぜ?」
女性の体の周りから風を感じる。
砂埃と木の葉が女性の周りを舞っている。
――風?
女性の周りの風が剣をも覆う。
「風の精霊よ、我が身を覆い、今一度疾風の加護を」
詠唱だ。
なるほど、風の魔法を使っているのか。
女性が詠唱を唱えると、周りの風が目に見えるほどに速くなる。
動きもさっきとは、見違える程に俊敏だ。
風を身に纏い、自分の身体能力を上げる魔法なのだろう。
「おお、お前は風魔法を使うのか」
男の関心したように彼女を見る。
女性は何も言わずに動き出す。
ものすごい速さで男に近づくと、そのまま風を纏った長剣で縦に剣を振る。
「――!?」
男は剣で弾き返すことができないと判断したのか、後方へ飛ぶ。
だが男もこのスピードには反応できなかったのか、胸に浅い切れ込みが入る。
男の胸から血しぶきが吹き上げた。
「痛ってえな!」
男は自分の胸が切られたことに気づくと、すぐに反撃を開始した。
刃の太い長剣を女性と同じように縦に振る。
だが当たらない。風魔法を使っている女性は腰まである、黒髪をなびかせながら華麗に避ける。
「くそっ! 魔法で変な真似しやがって」
男の剣術は決して素人の技ではない。
だが、風魔法を使った彼女にはただの剣術だけでは攻撃すら当たらない。
この世界で剣術と魔法では魔法の方が優位に戦える。
突然、男はにやりと不気味な笑みを浮かべた。
「――?」
女性もなんで笑っているのかわからないようだ。
男が笑んでから数秒後、突如周りが白いモヤに包まれる。
――? 一体なんだ? あの男の魔法か? だが詠唱を唱えてなかったような……。
男は白いモヤと共に消える。
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