特攻機
「おい交代はまだ来ないのか?」
「艦長落ち着いてください、救援を呼んでからまだ1時間程しか経ってません」
「こんな所に居て落ち着いて居られるか」
此の海域は沖縄を目指す特攻機の通り道。
早期警戒艦として此の海域に配置されている駆逐艦の艦長として、ただでさえこんな所にいたく無いのに俺の艦は現在スクリューのシャフトを損傷して動きたくても動けないでいる。
数時間前最初の特攻隊の群れ、双発の爆撃機BETTYが数機飛んできたが直ぐに早期警戒の戦闘機隊に捕まり全機撃ち落とされた。
その中の1機が、道連れだと言わんばかりに火達磨に成りながら俺の艦を目指して突っ込んで来た、まぁ、面舵一杯で避けられはしたんだ。
ただ……、避けられはしたんだが、艦尾直近に墜落したBETTYの為に、スクリューのプロペラ軸が艦尾ごと折れ曲がってしまった。
それで俺の艦は目下、二進も三進も行かなくなっている。
「見張りを増やしておけ」
「見張り員は増やしましたが、早期警戒機が頭上で警戒して居ますから当分大丈夫ですよ」
「その早期警戒機が撃ち落とした奴の所為で損傷したんだぞ。
それにあいつらは、後30分もすれば燃料切れで居なくなる」
日本軍は腕の良いパイロットをフィリピンで大量に消耗した。
そのせいで沖縄に出撃してくる特攻機の殆どは、飛行学校を卒業したヒヨッコがそのまま特攻に参加させられて居るらしい。
ベテランだったら、早期警戒艦の後方に目当ての空母や戦艦などの大型艦が居ることを知っていて、早期警戒の駆逐艦なんて見向きもされず放おっておかれる。
ヒヨッコの新米パイロットたちはそれを知らないのかどうか知らんが。
早期警戒の駆逐艦だろうがLSTなどの小型艦艇だろうが見つけると突っ込んで来る。
それで少しでも損傷して黒煙を噴き上げると、それを目指して電灯に集まる蛾のように次から次へと黒煙を目印に飛んでくる、だから俺の艦は黒煙を噴き上げてないだけマシなんだが……。
「艦長、交代が来たようです」
「やっと来たか」
双眼鏡を後方の沖縄本島の方角に向けると、駆逐艦とLSTの2隻が近寄って来るのが見えた。
「早期警戒機が引き上げます」
「早すぎないか? クソ! 交代の部隊を早く寄越すように頼んでおけ」
近寄って来た2隻のうち、LSTは俺の艦を曳航する為に減速し逆に交代の駆逐艦は速度を上げる。
近寄って来た駆逐艦とLSTを見ている俺の耳に見張員の怒鳴り声が響く。
「右舷に敵機! 突っ込んでくるぞ!」
右舷に目を向ける。
海面ギリギリのところを飛んできたらしく今の今まで気が付かなかった敵機、両翼の下に爆弾を1個ずつ吊り下げた陸軍の戦闘機TONYが交代の駆逐艦に突っ込んで行く。
交代の駆逐艦は対空砲火を浴びせると共に、面舵一杯で船首を突っ込んで来る敵機の方へ向けようとしていた。
当然俺の艦の対空砲もLSTの対空砲も敵機目掛けて撃ちまくっているが、敵機はそれをものともせずに交代の駆逐艦目指して突っ込んで行く。
戦闘機は突入する寸前に両翼の爆弾2発を投下すると共に急上昇して、空高く舞い上がった。
投下された爆弾のうちの1発は交代の駆逐艦の煙突にもう1発は操舵室に飛び込み爆発する。
操舵室に飛び込んだ爆弾により交代の駆逐艦の艦長が戦死したか重傷を負ったかして、面舵一杯の指示が取り消される事無く駆逐艦は面舵を続け、LSTの横腹に接触。
接触したあとようやく交代の駆逐艦が減速を始める。
空高く舞い上がった戦闘機は真っ青な空の下で、大小の円を描いたり八の字飛行をしたりして楽しげに飛んでいた。
数分大空を楽しげに飛んでいた戦闘機は突然ダイブして、一直線に交代の駆逐艦目掛けて急降下を始める。
急降下を始めた戦闘機は躊躇う事無く交代の駆逐艦の黒煙を噴き上げる煙突に突っ込んだ。
戦闘機が煙突に突っ込んだのがトドメになり交代の駆逐艦は煙突部分で前後に2つに折れそれぞれ沈み始める、それと共に先程交代の駆逐艦に接触されたLSTも接触された横腹に穴が開いてゆっくりと沈み始めていた。
「ボートを下ろして全員救助しろ! それと……艦隊司令部に交代の船と曳航船を早く寄越せと連絡しておけ、クソが!」
BETTY 一式陸上攻撃機
TONY 三式戦闘機『飛燕』
LST 戦車揚陸艦