エピソード1:デッド・ハイツの日常 / 5
嶺想寺も自分の分の温かいお茶を啜り、和茶にお礼を告げた。うちに住んでいる人でここまで甘味の爆食いが出来るのは、和茶君くらいだから、と。何だか、今日、大学で似たようなこと言われた気がして、和茶は首を捻った。いつだっけ。何だっけ。和茶は湯呑も傾けながら、今日、大学でのことを思い返す。あぁ、サークルでのこと、だ。
今日、和茶は今日のサークル活動を休みたいという旨を、心霊サークルの部長の部長に告げてから授業へ出たのだが、その時のことだ。うちのサークルのメンバーで1番のビリリは和茶君だから、居てくれると面白いんだけどな。そんな部長に和茶は苦笑いを返したことを思い返し、すっかりサークルのいじられ役になっている現状にも苦笑いをした。
「和茶君、デッド・ハイツには馴染めたかな?」
「え、あー……失神しない程度には」
「そんな感じかぁ。まぁ、僕は君に膝を貸すのは嫌じゃないですけどねぇ」
それは和茶が嫌だった。嶺想寺の膝は寝心地がいい。それは否定しない。しかし、大学生の男が年上の見目麗しい年上の男の膝でゴロゴロしている姿は、こう、麗しいとは言えないだろう。和茶は想像してみたことをを脳内で掻き消しして、お茶をもう1口。玄芳の香り、日本茶。和茶は嶺想寺の淹れてくれるお茶が好きだった。
こんなことも和茶の日常の1部だった。謎は多いが嶺想寺は優しいし、まだ会ったことのないデッド・ハイツもきっと良い人たちなのだろう。 しかし、咲田の件が和茶のトラウマになっており、和茶の方からは他の部屋に挨拶に行けていなかった。新生活はデンジャラス。それが和茶の中の認識になってしまっていた。
田舎で生まれ育ったから、そういうわけじゃないだろう。だって、同郷の相葉は大学生活をエンジョイしているのだから。
「和茶くーん?食べ過ぎて気持ち悪いー?」
「……え、あ、いや、ちょっと考え事を」
「そっか。今日は大学から急いで帰らせちゃったみたいだから、夕食は僕が何か作りますよ」
そう言って、嶺想寺はキッチンへと向かった。リクエストはー?地雷はー?色々と聞かれるが、和茶は適当に「嶺想寺スペシャル」で、と頼んだのだが、出てきたのは唐揚げだった。和茶の胃を労る気はないようだった。しかし、和茶はそれをペロリと完食し、その日は満腹で眠ることが出来た。これもまた、飯山 和茶の生活の1部。
そして、時間は少しずつ進む。否応なく、和茶は「彼女」を出会うことになった。ちなみに、恋愛的な意味での「彼女」ではない。