エピソード4:心霊少女の魔払い教室 / 1
夏の暑さのピーク。そんな日に、和茶の部屋を訪れる者がいた。玄関のチャイムが鳴り、扉越しに誰だか尋ねてみると、意外な人物だった。和茶と面識のない、美嘉子と公平とは反対側のお隣さん、高木家の娘。和茶が扉を開けると、高木家の娘──高木 八重は深々とお辞儀をした。まだ小学生くらいのその少女は言った。
「あの、父のラップ音が煩くて、ごめんなさい……」
「……もしかして、真夜中の、あれ?」
和茶には心当たりがあった。デッド・ハイツに引っ越してきてから、真夜中になると何処からともなくラップ・ミュージックが流れてくるのだ。上か、右か、左か。はたまた、違う部屋からか。何にせよ、確かに煩いとは思っていた。やはり隣室からか。そう思い、流そうとした思考。流せないものがあった。「父のラップ音」。
ラップ音はラップ音だ。パンとかパーンとか。その音を人間が出せると思うか?否、和茶は即、その結論を出した。つまるところ、和茶はまだ名も知らぬ、高木 八重の父親もあっち側の者なのだと悟った。じゃあ、この目の前の少女は。人間か、否か。聞いてみるしかないだろう。和茶は威圧しないよう、屈んで少女に尋ねた。
「……1つ聞きたいんだけど、お嬢ちゃんもあっちの人?」
「あ!違います、違います!幽霊なのは父だけです!!」
「……どういうこと」
和茶は少女、八重を部屋に上げることにした。玄関じゃ暑い。少女は和茶が封印した鏡の前で立ち止まった。あれから、和茶は1回もあの鏡を使っていない。しかし、少女は鏡のお札を思いきり剥がしてしまった。和茶は叫ぶ。オーウノーウ!!!だが、少女は困ったように笑って、静かに言った。何処か、神々しささえ感じる笑みだった。
「もうこの鏡には何もいません。大丈夫ですよ」
……何故、それが分かる。
少女が只者じゃないことを悟り、和茶はこの小さな客人を丁重にもてなそうと決めた。デッド・ハイツ暮らしの光かもしれない。




