エピソード3:お盆の過ごし方 / 5
和茶が嶺想寺に事情を話すと、嶺想寺はポケットから「悪鬼滅殺」と書かれたお札を取り出した。いや、あの人たち悪でも鬼でもないし。和茶はそう言い、別のお札が無いか聞いてみた。すると、嶺想寺はポケットからもう1枚、お札を取り出した。「強制送還」。それも可哀想な気がする。結局、和茶は嶺想寺からお役立ちグッズは貰えなかった。
自室に帰り、着替えをして、鏡の方は見ないようにしてやり過ごす。お茶のボトルに冷蔵庫で作っていた冷茶を足した。ついでに氷なんか入れたりする。カランカランと氷の鳴るお茶のボトルをリュックに押し込み、和茶はリュックを背負った。しかし、仕方なかったとはいえ、デートの時間を遅らせてしまった一香の顔が頭に浮かび、考える。
果たして、手ぶらで言っていいものか。和茶は悩みに悩んで、昨日の夜に作ったお惣菜を弁当箱に詰めることにした。一香は和茶の作る料理が好きだった。
「んー……一香って、こんにゃく食えたっけ」
そう言いつつ、こんにゃくの甘辛煮を弁当箱に押し込む。あとは、たけのこの炒め物。ほうれん草の煮浸し。随分と家庭的な男子大学生だ、とよく言われる。好きで作っているわけではなく、必要に迫られて作っているのだが、いまいち理解されない。えー好きでやってるんでしょー?という言葉は飲み込めない。だって、自炊しないと金銭的にアレで。
それに、田舎の母親にも自炊を猛烈に勧められているのだ。自炊出来ないなら帰って来なさい、とまで言われている。弁当箱はおかずでいっぱいになった。
「主食、どうするかな。一香が何か持って来るかな」
生憎と、炊飯器に白米は入っていなかった。おかずだけの弁当箱をリュックに押し込み、今度こそ部屋を出た。再び、疾風丸に跨り、盆踊りの会場に向かって漕ぎ始める。デッド・ハイツから盆踊りの会場までそう遠くはない。それでも、夕方遅くだというのに、疾風丸を全力で漕いでいると汗が流れた。
盆踊りの会場に着くと、和茶は一香に電話を掛けた。どの辺にいるのだろうか。汗を拭いながら、汗で携帯が壊れないか心配していると、ドンッと背中に衝撃。振り向くと、そこには一香がいた。そして、和茶は見てしまった。スナックにいた客たちが踊っているのを。いやあんたら踊ってもらう側やんけ。和茶は心の中でツッコんだ。
一香に、遅れてごめん、と謝り、そして、和茶はデートの場所を変えよう、と提案した。一香は少し不満そうだったが、カラオケに行きたいと言った。……嫌な予感しかしなかった。一香も知っている。和茶がお経を唱えられることを。こうして、また、フラグを立ててしまった和茶は、諦めてのど飴を口に放り込んだ。




