エピソード3:お盆の過ごし方 / 3
和茶が店内に入ると、お店のママがカラオケマイクを持って、和茶に駆け寄ってきた。飯山君、お願い!と。何が何やら分からない和茶は、とりあえず、リュックを下ろした。そして、カラオケマシンの画面を見て、自分が指名された理由を理解した。カラオケマシンの画面に踊る漢字。見間違えようのない「お経」の予約がされていた。
──飯山 和茶という男子大学生には、人と変わったところがあった。
その過度の怖がり故、若くして各宗派のお経を暗記している。普段、役立つスキルではないが、スナックのバイトの面接時、和茶は履歴書にお経のことを書いていた。そして、今、和茶と同じような白いTシャツを着たお客さんたちがお経をご所望らしい。和茶はマイクを片手に、カラオケマシンの前に立った。お客さんたちが歓声を上げる。
そして、和茶はカラオケマシンのスタートボタンを押し、お経を唱え始めた。唱え終えると、熱い「アンコール!!」が飛んでくる。お客さんが満足するまで各宗派のお経を唱え続けた和茶は、唱え終える頃にはクタクタになっていた。持参のお茶を飲み、ママが出してくれた冷茶も飲み、和茶はカウンターに突っ伏す。ママが心配そうに言った。
「だーいじょうぶ?飯山君」
「……お経のリクエストならそう言ってくださいよ、のど飴とか持って来るんで」
「蜂蜜でも飲む?」
「や、いいです。ていうか、俺、夕方までいる意味あります?」
早く帰れるなら早く帰りたい。和茶はママにそんな視線を送った。ママは苦笑いする。年齢不詳の、自称・苦労人のママはお客さんたちに聞こえないように、和茶に囁くように言った。──お客さんたち、夕方までいるって言って聞かないのよ。お酒が入ってるみたいで、あたし1人じゃちょっと大変なのよ。……和茶は溜め息を吐く。
ママ1人に酔っ払いの相手をさせて自分は帰る、というのは気が引ける。お経のアンコールも始まってしまった。和茶は覚悟を決め、再び、マイクを握った。本職のお坊さんのことを心から尊敬する。和茶はどんなに頑張っても、お坊さんにはなれそうにない。お坊さんになったら、きっと、一年中、お経を唱える日々なのだろう。




